Brady Mikako/1965年、福岡県生まれ。96年から英国ブライトン在住。著書に『女たちのテロル』『子どもたちの階級闘争』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』『他者の靴を履く』など多数(撮影/写真映像部・加藤夏子)
Brady Mikako/1965年、福岡県生まれ。96年から英国ブライトン在住。著書に『女たちのテロル』『子どもたちの階級闘争』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』『他者の靴を履く』など多数(撮影/写真映像部・加藤夏子)
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 初の長編小説『両手にトカレフ』で、貧困やヤングケアラーについて描いたブレイディみかこさん。作品に込めた思いを聞いた。AERA 2022年8月15-22日合併号の記事を紹介する。

【写真】初の長編小説『両手にトカレフ』

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──『両手にトカレフ』は、ブレイディさんにとって初の長編小説ですね。今回、小説という手法を取った理由を教えてください。

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読んだ息子から、これは幸せな少年と幸せな学校の話で、キラキラしすぎている。確かに自分や友だちの多くは、クラブ活動で音楽部とかに入って好きなだけ活動できるけど、そうじゃない子もいるよね。学校はそういう活動に力を入れているけれども、その恩恵にあずかれない子どもがいるのに、そういう子どもが『ぼくイエ』からは抜けている。ノンフィクションだけど、そういう点で本当のことは書けてないんじゃないかみたいなことを言われたんですね。

 確かにその通りなんです。『子どもたちの階級闘争』という本にも書きましたが、当時、私が保育していた子どもの多くは、家庭の事情で放課後にクラブ活動もできないんです。『ぼくイエ』で、そういう子どもたちのことがごっそり抜けているのは、私はあえて書かなかったのかなっていうのが自分の中の疑いとしてあったんです。

■フィクションで書く

──あえて書かなかったのには、どのような理由があったのでしょうか。

 そういう子たちが出てくると、重い話になってしまいますから、おもしろおかしい、爽やかなエッセーでは、追えない部分が出てきます。あの子たちが抱えている問題は、ノンフィクションで書けるようなものでもありませんでした。じゃあ、それを書くとなったらどうしたらいいのだろうという時に、私の知っている子たちの様子を入れこんだキャラクターを作り出して、フィクションで書くしかないって思ったんです。

 ノンフィクションっていうのは、本当にあったことを書いているわけだから、編集者さんと話し合って話を変えるってできませんよね。でもフィクションは編集者さんと、ここはこうした方がいいんじゃないかというような話し合いがありました。そういうことは、私は初めての経験だったので楽しかったですね。

──第三者の意見が入ることで、具体的にはどのような変化が生まれたのでしょう。

『両手にトカレフ』はWEB連載でしたが、そこで構想していた終わり方は、もっと暗かったんです。でも編集者さんに、この物語は中高生にも読んでほしいから、光が見えた方がいいんじゃないかって言われたんです。

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