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 芸術家として国内外で活躍する横尾忠則さんの連載「シン・老人のナイショ話」。今回は、仕事のストレスについて。

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「いつも原稿を早くいただくのですが、締め切り前など、早めにお仕事をされる習慣はいつからされているのですか?」というご質問ですが、ムカシは、締め切りギリギリ、それも締め切りが過ぎて腰を上げていました。矢のような催促が何度もあって初めて、つまりギリギリ追い込まれないとアイデアが出てこないという習慣がいつの頃からかついてしまって、それが実はストレスになっていたのです。

 そんな時、松戸市だったか地方の市役所に何でも「すぐやる課」が出来たというニュースを知って、目から鱗、「よっしゃ、これをマネて、ひとつ意識革命を起こそう」、この「何でもすぐやる思想」を実践することにしたのです。まず手始めに、この日、ある女性誌の編集長がエッセイの依頼に来られました。テーマを聞いている内にアイデアが浮かんできたので、編集長が帰られると同時に、1カ月先の締め切りの原稿に着手しました。4枚の原稿だったけれど、40分ほどで書き上がったので、すぐにファクスで送りました。しばらくすると編集長から、「編集部、全員騒然としています」という驚きの電話がありました。こんなに驚いたり喜んだりされるのなら、できるだけ締め切り前に原稿を書いて、仕事を遊びに変えてしまおうと、スタッフにもこの発想を徹底させました。そのために残業することは全くなくなりました。

 仕事の依頼というのは、実は受けた瞬間からドスンと身体に来るものです。そして、その瞬間からストレスが始まります。このストレスが生活の円滑さを狂わせることになります。人間は誕生と同時に老化が始まるそうですが、仕事も同じように、依頼と同時にストレスが始まります。医者によると病気の原因の大半がストレスだと言います。とにかく健康で、もし長寿を望むならストレスのない生活をするべきでは。人がストレスを起こすのは仕事を先送りにして、ため込んでしまうからではないか。

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横尾忠則

横尾忠則

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。

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