「やっぱり学生たちとの距離は圧倒的に縮まりますし、彼・彼女らの考えていることが感覚として分かるようになる。同じ釜の飯を食うことの尊さを実感しますね。でもね、もう笑っちゃうくらい大変ですよ。昨日も風呂場に『近所迷惑になるから大声で騒がないように』って貼り紙をしたし、消灯時間の管理もするから早寝もできないし。毎日が想定外だらけで、試行錯誤です。でも、自分がやると決めたからには徹底的にやるしかないし、仁王立ちするしかないんですよ」
同大学学長の西本照真は伊藤を知人の紹介で知り、その情熱に惚れ込んで「あなたに全部任せたい」とオファーした。西本も驚きを隠さない。
「あれほど多忙な方に寮暮らしまでお願いするつもりはなかったのに、気付いたらもう住んでいた。学部名も当初は『アントレプレナー学部』を想定していたのですが、伊藤さんの提案で『アントレプレナーシップ学部』に。姿勢、精神が大事なのだという意見に私も同意しました」
なぜ今、伊藤はここまで大学教育に打ち込むのか。その答えは、「あんな自分でも変わることができた」という挫折と復活の経験に紐づいている。
(文中敬称略)
(文・宮本恵理子)
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