■学部長就任と同時に 寮で学生と寝食を共にする
「ここで挑戦したいのは、逆ピラミッド型の大学教育。上意下達で教えるのではなく、学生も教師も一緒になってフラットに学び、対話と議論を重ねる。そして、一人ひとりが自分と向き合い、『自分は何を考え、どうしたいのか?』と問い続ける。誰に頼まれずとも、高い志と倫理観に基づいて失敗を恐れずに挑戦して、新たな価値をつくるマインドを養う。これが目指す教育像なんです」
就任以来、伊藤がこだわってきたのが、学生との「1on1」、個人面談だ。60人いる1年次学部生全員と年3回の面談を行う。行動し、振り返り、気づきを仲間と共有して、また行動する。自ら学ぶ“型”を習得できれば、社会の荒波や失敗を乗り越えながら課題を解決し、意思決定できる人間へと成長できる。自分で自分の人生を切り開く大人が増えれば、日本はもっと元気になる。
伊藤にはそんな「仮説」があった。学部開設から1年経ち、その仮説は「確信」に変わった。
「一言で言うと、学生の目の色が変わった。高校まで野球優先で勉強をあまりしてこなかった学生が、急に目覚めたみたいで。対話を繰り返すうちに、『やりたいことが見つかりました』と言って、いつの間にか仲間と起業していましたね」
会計や事業計画策定のような起業に役立つスキル習得を前面に打ち出すわけではないが、挑戦を後押しする環境は整えている。科学技術分野やIT、財務、組織開発など、多彩な分野の第一線で活躍する事業家たちがズラリ、客員教授として並ぶ。全員、伊藤が自らのネットワークを生かして直接声をかけ、呼び込んだ“一流のメンター”だ。
伊藤自身も孫正義が率いるZホールディングスの社内教育機関「Zアカデミア(旧Yahoo!アカデミア)」の学長を務めるバリバリの事業家だが、いわゆる「名ばかり学部長」ではない。就任と同時に、東京都小平市内にある学生寮に移り住むことを決め、周囲を驚かせた。週に数日は都心の仕事場でリモートワークをしながら、学生たちと寝食を共にし、同じ空間で時を過ごす。