危機管理学部は、前理事長、田中英寿氏の肝いりで作られたといわれている。田中氏の生い立ちを描いた本にこんなくだりがある。
「英壽は、自ら手掛けて創設した『危機管理学部』に多大な期待を寄せた。これまで、英壽は危機管理に関して、常に想いを巡らせてきた。『世界を取り巻く状況はますます複雑化し、国家・社会・人間の安全を確保する総合的な危機管理能力を有する人材が求められる』」(『炎の男 田中英壽の相撲道』佐藤三武朗 幻冬舎 2020年)
なお、同書は、田中氏と「永久に決別し、その影響力を排除」すると宣言した加藤直人現学長・理事長の推薦文がオビに表記された、いわくつきの評伝である。
2018年、アメフト部で悪質タックル問題が起こったとき、同部は公式試合の出場資格停止処分を受け、監督やコーチが一新された。このとき大学の対応は後手にまわり、組織として危機管理がなされていないという批判を受けている。それは危機管理学部に対しても向けられた。揶揄するかのように。同学部の学生はさぞ、つらかったことだろう。
2020年、危機管理学部は初めて卒業生を出し、そのうち警視庁に12人が就職した。
今回、脱税問題で東京地検に起訴された田中英寿氏は、「国家・社会・人間の安全を確保する」人材育成の願いがかなったことを、自らの過ちを反省しつつ、喜んでほしいものだ。
就職先で企業別の大学ランキングをみると、大林組、竹中工務店、大成建設、清水建設で、日大が1位となっているのは目を引く。
なぜ大手建設会社に強いのだろうか。日大には建築学系の学科が3つ―――工学部建築学科(福島)、理工学部建築学科(東京)、生産工学部建築工学科(千葉)―――あるからだ。3学科の学年定員は628人を数え、他大学を圧倒するスケールの大きさが、日大の特徴である。
こうした「数の論理」は、一級建築士国家試験合格者数1位にも示された。建築業界に優れた人材を多く送り出しており、日大閥が幅を利かせている大手建築会社があるようだ。
大林組建築事業部に勤務する、理工学部建築学科OG(一級建築士)がこう話している。