林:はい、絵本を原作にした新作歌舞伎ですね。拝見させていただきました。
獅童:あれは子どもから大人までが楽しめる歌舞伎を意識したんです。歌舞伎が、ただめずらしい天然記念物みたいな演劇になっちゃうと寂しいので、今に生きる演劇として残っていくべきだと思ってやったんですね。
林:コロナの中、獅童さんはユーチューブをやられたり、初音ミクちゃん(バーチャルシンガー)と“共演”したりされたんでしょう?
獅童:「超歌舞伎」ですね。
林:ああいう発想をなさるのがすごいですよね。ふつうは考えつかないですよ。
獅童:でも、江戸時代にバーチャルがあったら、当時の人も絶対取り入れてますよ。歌舞伎って最先端の演劇だし、その時代その時代の最先端を行くものを取り入れてきたんですよね。その精神は忘れちゃいけないと思うんです。
林:なるほどね。
獅童:昔、うちの母なんかは「役者はふだんの生活を見せちゃダメよ」と言ってましたけど、いまはインスタグラムとかユーチューブを見て興味を持つという時代になっちゃって、それに取り残されるのもよくないので、僕もインスタを始めたんです。子どもの写真を出したら、あっという間にフォロワーが十何万人になって。
林:すごいじゃないですか。
獅童:でも、シャクにさわりますよね。僕じゃなくて、子どもを出したら十何万人なんて(笑)。だからライバルですよ。
林:私はいつもチケットを2枚買って、一緒に行く友達が都合悪いときは、若い子を誘って行くんですけど、初めて歌舞伎を見るっていう人、多いんですよ。みんな見たあとは、「こんなにおもしろいとは思わなかった」って言いますね。私たちの世代がそういう若い人を導いてあげるべきだと思うんです。
獅童:ああ、ぜひよろしくお願いします。10年後、20年後、30年後の歌舞伎界を考えて、若い人だけじゃなく、子どもたちに見てもらいたいなと思いますね。
(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)
中村獅童(なかむら・しどう)/1972年、東京都生まれ。81年に歌舞伎座『妹背山婦女庭訓』で初舞台、二代目中村獅童を襲名。2003年、前年に公開された映画「ピンポン」で日本アカデミー賞新人俳優賞。以降、映画、ドラマ、現代劇と幅広く活躍。22年は、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に出演予定があるほか、「壽 初春大歌舞伎」(1月2~27日、東京・歌舞伎座)で、『一條大蔵譚』の吉岡鬼次郎を演じる。また、この公演で長男の小川陽喜が『祝春元禄花見踊』にて初お目見得。
※週刊朝日 2022年1月7・14日合併号より抜粋