伝統的な世界でのご活躍はもちろんのこと、新しいことにもチャレンジし続けてきた歌舞伎俳優・中村獅童さん。コロナ禍で打撃を受ける状況にどう向き合っているのでしょう。作家・林真理子さんとの対談では、コロナ時代の歌舞伎を語りました。
【中村獅童、息子・陽喜が「舞妓さんを連れて戻ってこなくて…」】より続く
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林:獅童さんはこのごろ、これからの歌舞伎はどうあるべきかというご発言が目立ちますよね。ついこのあいだまでは新世代で、「こんな新しい人があらわれた」という感じだったのに。
獅童:いつまでも若々しい気持ちではいるんですけど、といってもそろそろ50歳なのでね。コロナになって興行も大変で、お客さまあっての商売なのに、50%しか入れなくて、それでもなかなか席が埋まらない月があったりしたんですよ。
林:私も客席を見て「えっ、これだけ?」ってびっくりしたことありますよ。
獅童:コロナで一回離れたお客さんに戻ってきてもらうってなかなか大変で、こちらが「大丈夫だろう」と思ってぬるま湯につかってると、ほんとにダメになっちゃうんじゃないかと思いますね。ただ、コロナってピンチなんだけど、歌舞伎が変わるチャンスでもあると思うんですよ。伝統を守りつつ、「こうじゃなきゃいけない」という価値観を変えるチャンスでもある。
林:コロナの時代になってから歌舞伎は3部制になったじゃないですか。それに慣れちゃうと「これ、いいな」って思うんですけど、これからはまた2部制に戻るんですか。
獅童:歌舞伎って長いじゃないですか。正直言って自分があんまり見たくない演目も見なきゃいけないことがあると思うんですね。おっしゃるとおり、コロナになって「3部制、いいね」って言う人が多いんです。バリバリ働いている人が平日の昼間11時から3時までのんびり芝居を見に行くことなんてなかなかできないし、夜の部4時半からというのも、世代によっては行きづらい。たとえば4部制にして料金も安くして、2部は若手、4部は腕のあるお弟子さんというふうに分けたりしたら、お客さんは自分が見たいものが見られると思うんですね。
林:本当にそうですよね。
獅童:僕、コロナでいちばん心配したのは、お弟子さんたちのことです。旦那の仕事が決まらない中で、お弟子さんたちは自分の先々の仕事がどうなるかわからない。役者としてのモチベーションが下がっちゃうのがいちばんコワいことで、だから僕が「あらしのよるに」という……。