『森田芳光全映画』(リトルモア)
『森田芳光全映画』(リトルモア)

「劇場は立ち見でいっぱいで外にも行列ができていましたが、行列は夕方まで途切れず、森田に見せようと電話をかけたら、『ガラガラになるのが怖くて、函館まで逃げてきた』と(笑)。読まなきゃいいのにネットでの酷評も全部見て、ものすごく落ち込む。ただ、落ち込みは深いけれど立ち直りも早かったですね。次に向かうものさえあれば」

 デビュー以来約30年間にわたって日本映画の第一線で活躍した森田さんは2011年、急性肝不全により突如、世を去った。その早すぎる死は、多くの人に衝撃と哀しみを与えた。それからの10年を、三沢さんは「あっという間でした」と言う。

「私自身が“森田組”の一員であり、友達のような存在でもありましたし、周りの人にすごく恵まれたのだと思います。ブルーレイボックスや本を自分たちだけの思い出に残る存在ではなく、次の世代にまで森田の作品をつなぐ。“残す”ということが私たちの使命だと思っています」

 誰よりも映画に真摯に向き合い、温かく仲間思いだったその人柄は、関わった多くの人の心に今も深く刻まれている。その一人である鈴木京香さんは、こう語った。

「“森田組”のみなさんは、森田さんがいなくなったことを悲しむというよりも、監督のおもしろさを、思い出話としていつもお話しされていて、本当にみなさんに愛されていたんだと感じます。いつかみんなそっちに行ったときに、また森田組でおもしろいものを一緒に作りましょうと。それはきっと、すごく興味深い作品になるのでしょうね」

(本誌・太田サトル)

週刊朝日  2022年1月7・14日合併号

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