坂東:あと、映画で僕がつけるために、特殊造形で実際に胸を作ったじゃないですか。あのとき、自分の体におっぱいがついたわけですけど、そのとき、これは隠せないよなあ、と。
飯塚:しかも、坂東君の体格に合わせて作ったからちょっとでかすぎたんだよね(笑)。
坂東:そうそう! でも、これを実際に隠すのかと思うと、すごく不安に思った。生まれた時からある体と、真也がどう向き合って生きてきたかを、できる限り自分の体に浸透させていきたいとは思っていました。それはある意味、坂東龍汰を一回捨てることだった。
――映画は、実家の弁当屋で働く真也と、保育園に勤める今野ユイ(片山友希)の10年にわたるラブストーリー。出会ってすぐに恋に落ちた真也とユイ。子どもを望むが、トランスジェンダーである真也とは結婚すらできない現実が横たわる。
飯塚:坂東君は「とにかくユイが好き」って言ってたね。
坂東:そう、愛とコンプレックスの2本で考えていったんですよ。真也のユイへの気持ちは、僕が恋愛して人を好きになる気持ちと何も変わらない。ふたりの間にある愛は無償の愛で、切っても切れない愛が存在している。それさえ忘れなければ大丈夫だと思ったんです。この映画って、普遍的な愛がテーマですよね。監督は強い愛を描きたかったのかなと思ったんですけど。
■愛は持続できないのか
飯塚:おっしゃる通りで、この作品を作ったのは20代後半だったんですけど、周りが出産や結婚を経験するようになってきてたんです。トランスジェンダーに限らず、子どもができなくて夫婦が不仲になってしまう人もいた。結婚や子どもができないと、愛とは持続できないのかという疑問がわいてきたし、僕自身もその問題に直面していた。
坂東:そうだったんですね。
飯塚:だからこの映画は、僕自身が一番見たかった世界でもある。結婚もできない、子どももできない、それでも貫ける愛は存在するのか、というのがテーマ。答えとしては、そういう愛は存在する、と。
坂東:映画のエンディングも、希望がありますよね。