※写真はイメージです (GettyImages)
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 会社を辞めることは昔なら、どこか後ろめたい響きを伴っていたかもしれない。しかし、近頃は退職者を「アルムナイ」(alumni)と呼び、協業や再雇用といった形でつながりを保つ企業が増えている。働く人と組織の新たなカンケイを探った。

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 オンラインでの業務アシスタントを手がけるキャスター執行役員の渡(わたり)雄太さん(34)は2021年春、自身が責任者を務めるチームで元勤務先の総合商社「双日」のアルムナイ事業を引き受けることになった。「アルムナイ」とは企業退職者のこと。もともと「学校の同窓生」を意味する用語だが、近年では退職者とのネットワーキングを指して使われている。

キャスターの渡さん(同社提供)
キャスターの渡さん(同社提供)

「会社を辞めた後に得たスキルを、古巣にかえしたい気持ちは強い」

 渡さんはこう話す。幼少時代、両親の仕事の都合でインドネシアのジャカルタに滞在し、海外で働くことに関心を持った。大学卒業後に入社した双日では、レアメタルの輸入・売買に従事した。入社から4年半が過ぎた14年に退職し、ITベンチャーへ入社する。

 きっかけとなった出来事が二つある。一つは当時、周囲で商社からベンチャーへの転職が続き、自身も興味を抱いたこと。もう一つはこの年に第1子が生まれたことだ。

「子どもが大きくなり、家計の支出が増えれば、大きな意思決定はどんどんしづらくなる。たとえ年収が下がっても、転職するなら今しかないと思いました」(渡さん)

 その後、起業を経て20年9月にキャスターへ。双日を離れた後も後輩や元取引先との交流は続いていた。そんな中、同社の人事担当者からアルムナイ施策について相談を受けたことがきっかけで、退職者交流サイトの運営を任されることに。

 退職者専門のウェブサービス「オフィシャル・アルムナイ・ドットコム」を提供するハッカズークと業務提携し、サイト上で同社OBのインタビュー記事を掲載したり、交流イベントを企画したりしている。元勤め先との関係で心がけていたことを聞くと、「古巣を誇りに思う気持ちを折に触れて発信してきた。縁を大切にしたいという姿勢で来たことも今につながっていると思う」。

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