Caroline Bovard/1964年生まれ。社会学者。パリ経営大学院(HEC)卒業。社会科学高等研究院(EHESS)で、フランスの姓についての論文で博士号を取得

 例えば60代以上の女性にとって自分の夫の姓を名乗ることは、結婚という社会的ステータスをしっかりと手に入れることができたという「自尊心」の表れ、あるいは「名誉あること」として認識されることが多いという。また、つい20年ほど前まではフランスの女性たちも、結婚をしたら夫の姓を名乗るものだと思い込んでいる人が大半だった。

■女性の姓に変更は少数

 それがここ10年ほどで、結婚しても夫の姓はあくまで通名であるという認識が広く浸透した。もちろんこのように認識の変化はあったものの、結婚したら夫の姓を名乗る女性が多いのも実情だ。

「男性も女性の姓に変えることができると知っていますが、それをする人はほとんどいないのが現状なので、実際にはまだ一方通行な話なのです。ただ、今日のフランスでは夫婦別姓は議論の的になりません。それは誰にでも選ぶ権利があるからです」(同)

 フランスでは公的機関などが書類を作成するといった際、既婚女性には自動的に夫の姓を付与してきたが、フランス政府は00年、夫の姓を自動的に付与することを禁じ、女性が申請をした場合のみ変更することになった。

 日本とフランスでは法制度も歴史的な背景も大きく異なっている。しかし、全く日本とは異なる制度下でも家族は存在し、絆は築かれ、そして別れもある。それは必ずしも姓に関係している営みではないだろう。

 120年ほど前に当時の政府が定めた日本の夫婦同姓制。その少し前は夫婦別姓だった時期もあったという。今も結婚をして姓を変えるのはほとんどが女性だが、結婚までにキャリアを積んでいて一貫性を保ちたいという人も少なくない。今の夫婦同姓制に不都合を感じている人がいるのだとしたら、多様なニーズに対応できる制度に適宜変えることこそがより生きやすい社会への進化なのではないだろうか。(フリーライター・大野舞)

AERA 2022年1月17日号

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