■子どもの姓は法改正
では、どれくらいの人が通名として結婚相手の姓を名乗っているのか。それも正式に登録されるものではないため、正確な統計すらないという。
極端な話、今日は結婚相手の姓を使って明日は使わないということも可能だ、という。クレジットカードや保険証に記載する名前を相手の姓にすることはできるが、投票行為などでは出生時の姓を使う。結婚しても相手の姓が自分の正式な姓になることはない。
日本では、外国籍の人が日本人の結婚相手の姓を正式に名乗ることはできないが、クレジットカードなどに記載することはできる。それを通名というが、それと似たような位置付けだ。
このように法制度からしても夫婦別姓が議論になりにくいフランスだが、最近、議会で多少話題になったのが子どもの姓だった。
02年の法改正までは、親が結婚している子どもは父親の姓を名乗ると決められていて、母親の姓を名乗れなかった。しかしこの法改正で、子どもは父親の姓、母親の姓、そして父親と母親の両方の姓をつないだ連結姓を名乗れるようになった。
ただし、この法改正をめぐっても、フランス社会では議論などの盛り上がりを見せなかったとボヴァールさんはいう。国会では一部の伝統的な保守派議員が「父親の権威がなくなる」という理由で反対したものの、社会でデモが起こるでもなく、議論が白熱することもなかった。
その理由についてボヴァールさんはこう指摘する。
「姓がどうであろうと、家族は崩壊などしないという認識がすでに社会全体に広まっていたからです」
■未婚の親たちが多数
そうした認識の根底には今日のフランスでは結婚と子どもを産むことが必ずしも結びついていないことがある。
「フランスでは現在、第1子に関しては3分の2以上が未婚の親たちから生まれています。そして子どもの姓については、結婚していなくても、どちらの姓をつけてもよいことになっているのです」(同)
結婚しなくても、姓が異なっていたとしても、家族であることに変わりはない。筆者の周りでも、もはや結婚をしているのか、していないのかわからない友人がたくさんいる。あえて聞くこともない。もちろん結婚していて、同姓だったとしても、離婚に至るケースだってある。
とはいえ、フランスでも日本のように女性が夫の姓(通名)を名乗る社会的な慣習はある。ボヴァールさんによると、実際、結婚をしたら女性が夫の姓を名乗ることが「当たり前」だという認識は長い間あったという。