上田:僕の中には二人の自分がいまして。「仲間と楽しく好きな作品をつくりたい自分」と「商業的成功やキャリアを考えている自分」と。最近はそのバランスにいつも葛藤している。それが本作の登場人物にも反映していると思います。

林:そうなんですね。奥さまはこの3作目、どうごらんになったんですか。

上田:妻ですか? 最初「オリジナル企画をやってください」と言われて、僕が「どの企画がいいかな」と言ったときに、妻が「“アレ”が飛んでいっちゃうやつがいいんじゃない?」って(笑)。できたときに「変な映画ができたね」と言ってました。いい意味でだと思いますけど。

林:今回の作品、かなり手応えを感じてるんじゃありません?

上田:1作目、2作目は、どっちかっていうと陽気なコメディーだったんですけど、今回はぜんぜん手触りの違うものになっていますし、今までの自分と違う作品ができたなと思います。

林:なんか純文学の味わいで。

上田:純文学の味わい!? ああ、うれしいな。僕、小説は純文学のほうが好きなんですよ。

林:おー、そういう人っているんだ(笑)。

上田:小説をたくさん読むほうじゃないんですけど、読むのは純文学が多いんです。

林:たとえばどんな方の?

上田:夏目漱石とか、若いころは村上春樹にハマりましたし、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』がすごい好きで、彼の短編を読んだりしてました。お話がしっかりあるエンタメよりは、文体で読むもののほうが好きでしたね。比喩の書き方とか、文章そのものを読んでいた感じです。こういうときのことをこう表現するんだ、おもしろいなあ、と思って。

林:なるほどね。上田さん、この映画でまた評価が上がりますね。「どうだ、俺のこの才能!」ってドカンと見せつけたような感じ。

上田:ほんとですか。そう言っていただけると、心強いですね。「カメ止め」以降、メジャーや大手からも「一緒にオリジナルやりませんか」ってオファーをいただくようになったんですけど、「ポプラン」はなかなか自分から提案する機会がなくて。

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