「パン屋をはじめ個人店が生き生きしている町は、住人の生活も豊かになる。ITを活用した仕組み作りで、バックアップしていきたいです」(大谷さん)
移動するのは「商品」だけでない。「技術」もだ。中古電動アシスト自転車をネット販売するイーチャリティは、21年4月から自転車修理をする移動店舗「CYCLE PIT(サイクル ピット)」を首都圏で始めた。代表の犬伏宏明さん(46)は言う。
「サステナブルな交通手段として自転車は注目されていますが、業界自体は新車販売一辺倒でけっしてサステナブルではありません。これを変えたい」
新車販売は大型チェーン店やホームセンターが市場を席巻し、町の自転車屋の廃業が進んだ。その結果、新たに“修理難民”が生まれている。中古市場も十分確立されていないため、故障したり、不要になった自転車はスクラップされる一方だ。
取材したのは11月の祝日。東京・有明のタワーマンションの下で、修理に加え、中古の電動自転車販売や交通ルール啓蒙の紙芝居イベントも行った。マンションでは駐輪スペースが限られ、不要自転車があふれる悩みを抱えているところも少なくない。イーチャリティでは買い取りや引き取りもする。
■サステナブルな業界へ
この日も、不要になった子ども乗せの電動ママチャリの買い取りや、幼稚園の通園用の自転車購入など、相談者が引きも切らなかった。これに対し犬伏さんは、新車や中古の購入だけでなくライフサイクルに応じて乗り換える、レンタルの選択肢も提案。さながら“自転車コンシェルジュ”のようだった。
「町の自転車屋の修理技術は高い。新車販売に限らず、客のニーズに総合的に応えられるように業態転換させ、自立できるようにしたい。業界を真にサステナブルに変革したいです」(犬伏さん)
ネットとリアルの融合の先に、取材した3者が描いていたのは、個々の生産者や技術提供者の専門性が尊重され、生かされる社会の実現だ。そうなると、私たちの暮らしはもっと元気で楽しくなりそうだ。(編集部・石田かおる)
※AERA 2022年1月17日号