◆孫のDAIGO気配り祖父譲り
竹下は、最後はしこりを残したままだった角栄とのエピソードも多い。
角栄の金権政治はすさまじく、自民党の他派閥だけでなく、野党にも配ったとされた。だから、与野党は表面的には対立していたけど、実は全く対立していなかった。
「(与野党で意見が対立して)国会が荒れることがあっても、野党は事前に質問内容を僕のところに教えに来る。国会でのやりとりが時々違う内容になった時は、謝罪にも来た」と竹下が明かした。
さらに角栄から「君は官僚出身ではない、党人派だ」と言われ、国家公務員の課長以上の名前や誕生日、結婚記念日、子どもの誕生日まで暗記して、当日は贈り物を出すように、とアドバイスされたという。
だけど、「俺はおやじ(角栄)と違って頭が悪いから、覚えられない」なんて言っていた。竹下はそこで、公務員の誕生日などを書いた巨大な巻物をつくるのね。竹下の巻物って、有名になった。
こうした角栄の教えもあって、竹下は与党にも野党にも非常に気配りのきいた首相だった。けれども、リクルートで辞任せざるを得なかった。
憲法観についても尋ねたことがある。
「自衛隊と憲法は大矛盾している。こんな矛盾していていいのか」と。すると、竹下は「だから、いいんだ」と言った。大矛盾している自衛隊も政府も、この関係を変えようとしない。大矛盾しているから日本は絶対に戦争ができない、という理屈だった。
最近、テレビ局で控室がたまたま隣になった、若い男性タレントがあいさつに来た。よく知らなかったんだけど、「DAIGO」というミュージシャンで竹下のお孫さんだった。わざわざ来てね、「祖父が大変お世話になったと聞いております」と頭を下げていった。
別の日にも、テレビ局のロビーにいたら駆け寄ってきて、「DAIGOです」と丁寧にあいさつされた。気配りのあったおじいさんのもとで育ったんだろうね。
(構成/週刊朝日編集部)
*次回は宮沢喜一です
※週刊朝日 2022年1月28日号