映画の中で佐藤さん演じる原田智は、その巨体の中に、えたいの知れない凄みや哀しみやおかしみを共存させていた。
「人間、普段は見たくないものには目を背けて生きていますが、この映画では、その『本当なら見たくないもの』が見えてきてしまう。役を演じているときもキツかったです。僕、自分は、カットがかかったらすぐ役のことを忘れて、頭を切り替えられるほうだと思っていて、『カットがかかっても、なかなか役が抜けなくて~』みたいな発言に憧れがあったんです(笑)。てっきり、自分はそういうところは小器用なほうだと思っていたら、この作品で初めて、ホテルに戻っても役をちょっと引きずってる感じの自分がいた。『こういう面もあったのか』とあらためて思いました」
タフな撮影だったが、撮影途中にプロデューサーに会ったとき思わず、「ちょっとバケモンみたいな作品になりそうな予感がします。参加できてよかった」と伝えたほど、手応えを感じていた。
(菊地陽子、構成/長沢明)
佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年生まれ。愛知県出身。96年に演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げ。舞台をきっかけに堤幸彦監督の目に留まり、2000年ドラマ「ブラック・ジャックII」で映像デビュー。近年の代表作に映画「銀魂」シリーズ、ドラマ「浦安鉄筋家族」「ひきこもり先生」、「勇者ヨシヒコ」シリーズなどがある。映画「memo」(08年)、「はるヲうるひと」(21年)では、監督・脚本・出演を務めた。
※週刊朝日 2022年1月28日号