気鋭の監督から届いた手紙。「演じてほしい」と請われたのは、苦悩や矛盾を抱え暴走する父親役。見つけたくないものを“探す”ハメになる衝撃作に、俳優・佐藤二朗さんは持ち前の明るさを封印して挑んだ。
あるとき、佐藤さんの元に一通の手紙が届いた。差出人の名は、片山慎三。2018年に自費で製作した「岬の兄妹」で長編映画監督デビューを果たした新進の映画監督の名前だった。同封されていた分厚い脚本には、「さがす」という奇妙なタイトルがついていた。
「手紙には『自分の商業作品監督デビューになる自作の主演をぜひ二朗さんにやってほしい』と書いてありました。片山くんは20年近く前、僕が出演していたドラマで、制作をやっていた青年でした。当時は僕が32歳ぐらい、彼は20歳そこそこ。制作といっても使い走りみたいな感じだったんですが、少し話しただけでも、発想や発言が面白かった。それで、『君、オモロいな』と声をかけたことを覚えています。『岬の兄妹』を撮ったことも知っていたので、あれからずいぶん鍛錬を積んで、感性を磨いたんだろうな、と」
同封されていた台本を読んでみた。「指名手配中の連続殺人犯を見た。捕まえたら300万円もらえるで」と言い残して、娘の前から姿を消してしまう父。残された娘は、父を捜し始めるが、彼女が見つけたのは父になりすました連続殺人犯だった──。スリラーやサスペンスの要素を盛り込みつつ、家族の純愛も描かれ、物語の中にぐいぐいと引き込まれていった。
「精神的に追い込まれた人間を演じるのはしんどいことだけど、この役をやってみたいという衝動に駆られました。僕の場合はパブリックイメージが先行して、明るい、笑える感じの役をいただくことが多いんです。今回は、普通の、どこにでもいるお父さんの役だったので、『よくぞ俺のところに話を持ってきてくれた』と(笑)。予想もつかない展開の連続ですが、あくまで普通のおっさんを演じたつもりです」