TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。ドキュメンタリー「ザ・ビートルズ:Get Back」について。
【写真】ドキュメンタリー「ザ・ビートルズ:Get Back」
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語り継がれるビートルズのルーフトップコンサートが行われた場所を見るためだけにロンドン、サヴィル・ロウに行ったことがある。
ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの4人組は高級紳士服店が軒をつらねるこの街で、ゲリラライブを敢行、駆けつけた警官に向かって吠えるように“ゲット・バック”と連呼したのだ。
映画「レット・イット・ビー」が公開されたのは1970年。12歳だった僕は小遣いを握りしめて吉祥寺の映画館に足を運んだが、口げんかばかりで笑顔はなく(ポールはジョージをいじめ、ジョンは素知らぬ顔で下を向き、リンゴは所在なげにドラムセットに座っていた)、こんなにまで観た者を暗くするのかと呆れてしまった。
そもそも「レット・イット・ビー」は生まれて初めて買ったアルバムだった。一生の記念になるだろうと集めていた百円札20枚をはたいて。楽譜も入手し、目を瞑ってもピアノで弾けるようになっていた。それなのにこんなにも寂しい収録を見せられて。ただ、最後のゲリラライブはよどんだ空気を吹き飛ばすように躍動し、演奏の喜びに満ちていた。そこをもう一度観たいと思っていたが、DVD化もされることなく、幻となっていた。
それが! 今配信中のドキュメンタリー「ザ・ビートルズ:Get Back」(ディズニープラス)はロックファンの間で定説とされてきた陰鬱なイメージを塗り替えた。
配信時間は7時間50分。監督のピーター・ジャクソンは60時間の未発表映像と150時間の未発表音源のすべてを見直し、こう気づいた。
ビートルズは、愉快にふざけ合い、真剣に議論し(「レット・イット・ビー」のイントロはジョージの助言によるものだった)、それぞれガールフレンドを連れ、和気あいあいと騒がしく収録に臨んでいた!