「カメラは暴力。向けるのは最小限にしたい」と大島は言う。だからこそ一瞬を逃さない(撮影/写真部・松永卓也)
「カメラは暴力。向けるのは最小限にしたい」と大島は言う。だからこそ一瞬を逃さない(撮影/写真部・松永卓也)
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 ドキュメンタリー監督・プロデューサー、大島新。2020年、衆議院議員の小川淳也の初出馬から17年を記録した「なぜ君は総理大臣になれないのか」が、大きな注目を浴びた。撮ったのは大島新。大島渚の息子として見られることに居心地の悪さを感じながら、自分の表現を追求してきた。昨年10月の衆議院選挙で小川や平井卓也らの戦いを追った「香川1区」も公開。ドキュメンタリーとは何か。大島を追いかけた。

【写真】選挙戦のさなかの小川淳也にカメラを向ける大島氏

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昨年12月24日。東京都中野区の映画館「ポレポレ東中野」に大島新(おおしまあらた)(52)はいた。監督したドキュメンタリー映画「香川1区」の初回上映が行われているのだ。映画がクライマックスに差し掛かったとき、映写中のホールからドアを開けてロビーに出てきた大島は、泣いていた。

「何度観ても、泣いちゃうんだよね」

 昨年10月末、衆議院選挙で香川1区から出馬した衆議院議員・小川淳也(50)の戦いを追いかけた本作。開票結果を受けて小川の長女・友菜が挨拶をするシーンに泣けたという。

 ……いや、確かにめちゃくちゃ感動的ですけど、あの場面、編集中に何十回も観てますよね? 赤い目をした大島をちょっぴり冷やかしてしまったけれど、いまあらためて思う。あの涙は無事に上映ができたことへの、喜びの涙だったのだ、と。

 大島は小川の初出馬からの17年間を追った前作「なぜ君は総理大臣になれないのか」で一躍注目を浴びた。愚直なまでに真っすぐで、ゆえにむくわれない政治家の苦悩と奮闘を描き、コロナ禍での公開ながら都内2館を6日連続で満席にする異例の大ヒット。小川の知名度は全国レベルになり、大島は取材にきた記者に「映画が現実を動かしましたね」と言われるまでになった。続編となる「香川1区」への期待、そのプレッシャーは相当なものだったろう。

 撮影終了から公開まで2カ月を切るスケジュール。小川の相手候補・平井卓也陣営の闇にも斬り込み、訴訟や上映差し止めの危険もはらんでいた。無事に初日を迎え、満員の客席から割れんばかりの拍手を浴びたいまも、緊張は続いている。

 今回、香川での撮影に同行し、大島のドキュメンタリーの作法を垣間見た。現場ではあまりカメラを回さない。粘らず、グイグイ前に出るようなこともしない。だが、その目は鷹のように広く冷静に周囲を見渡している。

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