伊藤詩織さんは判決後に会見し、「弁護士や友人など、多くの人に支えられてきました」と述べた(撮影/編集部・野村昌二)
伊藤詩織さんは判決後に会見し、「弁護士や友人など、多くの人に支えられてきました」と述べた(撮影/編集部・野村昌二)
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「この民事裁判で『同意』がなかったと認められたのは、とても大きいことだと思います」 

 1月25日午後6時、東京都内の貸会議室で開かれた会見で、ジャーナリストの伊藤詩織さん(32)はそう語った。 

 伊藤さんが元TBS記者の山口敬之氏(55)から性暴力被害を受けたとして、慰謝料など1100万円の損害賠償を求めて起こした民事訴訟の控訴審判決。この日午後、東京高裁101号法廷で開かれた裁判で、中山孝雄裁判長は「同意なく性行為に及んだ」と一審判決を支持。山口氏に330万円の賠償を命じた一審の東京地裁の判決を追認し、約332万円の賠償金を支払うよう命じた。

*  *  *

 一方、伊藤さんの会見や著書などで「名誉を傷つけられた」として、伊藤さんに1億3千万円の賠償と謝罪広告を求め反訴していた山口氏の請求も一部認め、伊藤さんに慰謝料など55万円の支払いを命じた。

 裁判には伊藤さんのほか、グレーのスーツに紺のネクタイを締めた山口氏も出廷。山口氏は判決理由をメモしながら聞き、最後は一礼をして退廷した。

 伊藤さんは2015年4月、就職相談のため、当時TBSのワシントン支局長だった山口氏と都内で食事をした。その際に酒に酔って意識を失い、望まない性行為を強要されたとして、伊藤さんは警視庁に告訴。山口氏は準強制性交等容疑で捜査されたが、東京地検は16年7月に嫌疑不十分で不起訴とした。

 伊藤さんは検察審査会に不服を申し立てたが、17年9月に出た議決は「不起訴相当」。これを受け伊藤さんは同年9月、「望まない性行為で精神的苦痛を受けた」として、山口氏を相手に民事訴訟に踏み切った。

 19年12月18日、一審判決で伊藤さんが勝訴。山口氏はこの判決を不服として翌20年1月、控訴していた。控訴審では新たな主張などはされておらず、一審同様、性行為の同意があったかどうかが主な争点となった。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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