■感染症は楽観視はダメ

「感染症において楽観視はダメだということです。田村憲久厚生労働大臣(当時)も『最悪の事態を想定して対策をする。それで流行が収まって、後でやりすぎ批判が起こっても、国民の健康被害が少なく済んだのなら、僕は甘んじてそれを受ける』と言っていました。感染症は広がりだすと手がつけられなくなる。だから、対策は早く・強くやって封じ込め、短く切り上げる。でも事が起こってないときに先手で対策を打つことは日本社会では難しい。日本の組織では何かをやって失敗したより、やらないで失敗した人のほうが復活の目がありますから、前例にないことは決断ができずに起こったことに対処するという、後手の対応になってしまうんです。逐次投入の対応では、ウイルスの拡大に負けます。第5波では中等症の患者さんが自宅療養せざるを得なくなって、救急医療も逼迫しました。それはコロナ対策を決める、責任ある立場の人がリスクを取らなかったことが原因です。感染症対策においては、先手で強い政策をとっても短絡的に非難されないような国民理解を醸成したいのです」

■権威に情報入れるべき

 本書では、専門家会議や分科会の主要メンバーの対応についても鋭く言及している。

「菅(義偉・前)総理は分かっていないと批判されましたが、総理に説明する役回りの人、内閣官房参与や分科会の先生方が最悪の事態までを想定して、きちんと説明していたのか、この国のために先手の対策を提言できていたのか──。国家の意思決定に関わる専門家のあり方を明確にしたかったので、私が知っている事実を時系列で振り返ることは重要でした。WHO(世界保健機関)の資料や多くの海外情報、論文に目を通すのが私の毎日のルーティンワークです。日々の流行状況とウイルスの最新のサイエンスにキャッチアップしていくことが必須だからです。それを対策や政策の提言、解説に繋げていきます。そうしたことは最先端の研究を理解し、知識のある現役世代でないと難しいのだと実感しました。ならば、その世代がフォローして重要な立場にいる学会の権威やらトップに情報を入れるべきだと思います。現場の専門家の方が脇でリアルタイムにサポートするということ、それを政策に速やかに繋げていくことで先手の対策をやっていく。そして、最悪な状態まで想定してリスク評価をする。パンデミック対策は危機管理なのですから」

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