家族人類学の視点から、新しい世界像と歴史観を提示してきたフランスの“知性”エマニュエル・トッド氏(歴史家、人類学者)。最新作で取り上げたテーマは「女性の解放の歴史」だった。深刻化するアフガニスタンの女性差別、日本の男女の問題……。トッド氏はどう見るのか。ジャーナリストの大野博人氏がオンラインで聞いた。「性と社会」を特集したAERA 2022年1月31日号の記事を紹介。
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──西欧以外の社会にも、性をめぐる問題は重くのしかかっています。たとえばアフガニスタンの女性差別は深刻です。
アフガニスタンはイスラム圏の国で、父系、内婚制です。女性の地位は最も低い社会の一つです。でも、それはタリバンが作ったわけではありません。
中央アジアの中心部の歴史の結果です。人類学的な課題を、軍事介入で解決できるという考えはばかげています。
──でも、あなた自身もアフガニスタンの女性は解放された方がいいと考えるのでは?
1920年代にファッション誌の編集長だった私の曽祖母は子どもは産んだけれどレズビアンでした。私にとって女性の解放は思想の問題ではなく、生き方なのです。
けれども私は歴史家、人類学者です。まず自覚しなければいけないのは、自分が世界の中心ではないということです。人類はとてもとても長い年月を経て変わってきました。それはある時代の個人や組織だけでどうこうできるものではないのです。
中国やメソポタミアなどから始まった農業の集約化にしたがって、女性の地位の低下が進みました。アフガニスタンは、最も低くなっていった地域にあります。それは5千年にも及ぶ歴史の結果です。アフガニスタンで女性の地位が向上すればすばらしいけれども、それは複雑で、簡単に解決できない問題です。
もし地球規模での女性の地位について関心を持つというのなら、まず心がけなければならないのは、それぞれの国の人々を軽蔑するのをやめることです。そして、その地域で何が起きてきたのか理解することです。歴史を理解せず軍事的手段で歴史を変えようとしても、拒否反応を引き起こすだけです。外から価値がないと攻撃されるとその文化は硬直化します。