そんなことはいいんです。生です。とにかく、生です。生放送なのです。
私はね、私は全然平気なんですよ。泰然自若としてますからね、私は常に。ですから生放送なんて全然平気。余裕。 ただ仏はね。基本、彼は小心者だから。仏なのに。仏なのに小市民だから。かなり舞い上がったみたい。
なにせ番組が始まる前の打ち合わせでスタッフさんから「なるべく前半は声の主が分からない方がいいです。そして後半に分かってくるのが理想です」と言われたのに、「おはようございます」と一声発しただけで加藤浩次さん、岩田アナウンサー、森アナウンサー、つまりレギュラー陣全員にバレてしまうという不始末。
そこで完全に舞い上がった私は、じゃない、仏は、せめて視聴者の方々にはバレてなるものかと加藤さんや岩田アナ、森アナに「うん、黙ろう。みんな黙ろう。黙れ」と分かりやすく口止めをする始末。仏よ。「黙れ」ってね、皆さん、お話するのがお仕事なんだよ。皆さんが黙ったら放送事故だよ。もう、すっかりテンパっちゃって。ぷぷっ。仏なのに。
まあね。でも、彼(仏)は、宣伝はしっかりしてくれました。この日に無事公開を迎えた、僕(佐藤二朗)が主演を務める映画「さがす」の紹介をちゃんとしてくれました。また、同じ日に地上波初放送、仏の手下の手下、つまり僕の手下の手下の手下の手下の手下、福田雄一が監督を務めた映画「新解釈・三國志」の宣伝もしてくれたようです。
それにしても終始、加藤浩次さんに助けて頂きました。生放送だとすぐに舞い上がる私のこともよく知った上で、優しく導いてくれた加藤さん。私、加藤さんと同い年なんですけど、本当に頼りになる人です。放送を観た妻にも「今度加藤さんに会ったら、しっかりお礼言いなさいよ」と言われました。
いつの間にか仏が完全に姿を消してしまいましたが、とにかく、無事に(?)終わって、とりあえずホッとしている私、いや、仏、あ、私、いや、仏、要するに私でございます。
■佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。