新型コロナウイルスの感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ政策」の下、開催される北京冬季五輪。市民の自由を抑圧して開く祭典は何をもたらすのか。AERA 2022年2月7日号は、林望・朝日新聞中国総局長に聞いた。
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最近、北京の友人たちと集まった時、「『白いアヘン』って言葉を知っているか?」と聞かれました。中国のゴルフ好きはゴルフを「緑のアヘン」と呼んできたのですが、スキーにはまる人たちがそういう言葉を使うようになっているというのです。
そこまでスキー熱が高まっているのは意外でしたが、私の周りでもスキー場に行ってみたという人が増えたのは確かです。「今度、一緒に行こうよ」と誘ってくれる人も一人や二人ではありません。前回、北京に勤務していた2016年以前にはなかった会話です。
入場料や用具のレンタル代、初心者向けのコーチ料を入れると、週末に3人家族が1日遊べば、2千~3千元(3万6千~5万4千円)程度はかかります。それでも中国のスキー人口は19年に2千万人に達したとされます。中間層の成長を示す現象といえます。冬季五輪は披露される先端技術や施設の華やかさも含め、夏季五輪を開いた08年から一層国力を高めた中国の姿を映す舞台になると思います。
しかし、北京も新型コロナウイルスの脅威から逃れられていません。むしろ、中国政府の「ゼロコロナ」政策が、今回の五輪の特異さを色濃く浮かび上がらせるかもしれません。
北京は東京五輪よりも格段に厳しいバブル方式を敷きます。選手や大会関係者は北京の空港で飛行機を降りた時から完全に隔離された動線を通って入国審査を受け、指定された宿泊先にバスで移動します。競技施設やホテルは高い壁や塀で囲まれ、市民との接触は絶無。大会関係者を会場に運ぶバスは、窓を開けることすら許されません。
外国人と接触する中国側のスタッフも、大会後、長い隔離を経ないとバブルの外に出られません。知り合いの組織委員会メンバーは「自分たちはウイルスから中国を守る『肉の壁』さ」と自嘲気味に話しています。