「大変ですね~」
子どもを3人連れていると、こう言われることが多いです。言いたい気持ちもわかります。ここ数年まともにブローしていない髪を振り乱し、ここ数年連続して4時間以上寝たことがない充血気味の目を光らせて、絶えず車道へ突進しようとする2歳児を右手で制し、後方から付いてくる5歳児に気を配りながらバスに乗ろうと左手でSuicaを取り出す、お腹側には抱っこひもの中でぐずるゼロ歳児、背中側には3人分の荷物が詰まったバックパック──といった格好の自分がバスの窓ガラスに映るのを見ると、我ながら「大変だね」と言いたくなります。
大変自慢をしたいわけではないのです。子ども3人が2人や1人より大変だというつもりはないし、子どもが4人以上の家庭、多胎児や病気の子がいる家庭を考えると口が裂けても大変だなんて言えないし。それでも、自分なりに慌ただしい日々を「大変だ」と思うこと、それを「大変だね」と言われることに、すっかり慣れきっていました。
そんなある日。まともにブローしていないざんばら髪にさすがに危機感を覚え、久しぶりに美容室へ足を運びました。美容室へ行くときは、いつも初回限定クーポン使用のわたしです。何回も初めてのお店へ行くうちに、初来店の客に対する質問のマニュアルのようなものがあることがわかってきました。その日も、就職したばかりといったふうの若い美容師さんがおなじみの質問をしてきました。
「今日はこれからどこかへお出かけされるんですか?」
来店時間が夕方だと「今日はどこか行かれていたんですか?」に、大型連休が近いと「次のお休みはどこか行かれるんですか?」になったりと多少の違いはあるものの、この種の質問は相手の属性を選ばないし、答える側はあいまいにもぼかせるし情報提供しようと思えばできるしで、会話の糸口としてぴったりの質問なのでしょう。慣れたものだと思いながら、わたしはこう答えました。
「ほんとは買い物とかしていきたいんですけど、まっすぐ帰ります。子どもが待ってるので」
「子ども」というキーワードを軸に、話が転がっていきます。
「お子さんいると、なかなか髪切りに来られないですよね~」
「そうなんですよ~」
「お子さん何歳ですか?」
「えーと、3人いるんですけど……」
「3人ですか~」