林:ご自分でニットブランドを立ち上げたころのお話ですね。ビートたけしさんがよくお召しになっていましたよね。
小西:エルトン・ジョンやスティングも着たり。最高で100万近くするものが飛ぶように売れた。* 会社の設立が81年だから、華々しい時代は80年代から90年代にかけてだね。
林:そのときは、贅を尽くした生活をなさってたわけですか。
小西:というか、変な生活だったよね。* なにせフェラーリで近所のコンビニに牛乳買いに行ったりしてたしね(笑)。それであるときふっと振り返ると、預金通帳の数字の前に「△」がついてるわけですよ。
林:きのうまであんなに売れてたのが、パタッと売れなくなっちゃったんですね。
小西:そう。50代で5億の負債を抱えちゃった。12億円の資産が一気にマイナス5億円で17億円損した。あのときは、時代を無視して「自分のものづくりを貫くんだ」とか言って、作家になったつもりだったんだなあ。でもそれって誤解だったんだよ。* だから新聞にも目を通して、政治や経済といったあらゆることに関心を持ってないと、デザインはできないですよ。
*
林:ファッションが平均化されてつまらなくなったということですか。
小西:* ファッションというのは、一人ひとりの個性をどうやって引き出して、その人らしくするかということであってね。まずその人ありきで、それを包む包装紙がファッションなの。それが僕の持論。
(構成 本誌・直木詩帆)
※週刊朝日 2022年2月18日号