新型コロナ対策分科会の委員・内閣官房参与の岡部信彦氏
新型コロナ対策分科会の委員・内閣官房参与の岡部信彦氏

 専門家として期待されているのは、医学や感染症学など科学に基づいた知見とその提言だ。しかし、そうではない実態があったことを伺わせるエピソードが「秘闘」には多く出てくる。象徴的なのは、昨年8月の東京五輪の開催に関して、岡田氏が尾身氏に直接中止を進言した際のやり取りだ。

<インド型変異ウイルスの検疫強化をしてください。それから五輪は無理です。国内の人流が止まらなくなる。それを分科会で、内閣官房で、官房長官と総理に意見してください>(岡田氏)

 これに対して尾身氏はこう答えたという。

<まあ、政治だからね、五輪は。時機を見てね。なんでも時機と頃合いがあるからね。君はね、女だから正論言えるのね、純粋に生きられるのね>

 科学的な提言をもとめる岡田氏に対して、いつでも正論が言えるわけではないといさめるように言う尾身氏。岡田氏はこう振り返る。

「いつも頼りにしている親友の弁護士にこの話をしたら、『では男の発言は正論ではなく、保身からの発言なんですね。これからはそう考えて聞くようにします』と言い返すように言われました。そう言ったらきっと慌てるよ、でも、これがコロナ対策が後手に回った本質じゃないかと思う、とも」

 後手に回っている感染症対策だが、先手の対応を行うためにはどうすればいいのか。岡田氏は「まずは検査を拡充することが重要」という。

 感染の初期には、検査でサイレントキャリアを見つけて、感染拡大を防止する。検査を増やして感染拡大を防いでいけば、同時に経済を回していくこともできたはずだとみる。しかし、実際には症状のある人と、濃厚接触者への検査に限られてきた。オミクロンが流行している今は、検査キットが不足し、検査で確定診断を出すことも難しい状況になっている。

「厚労省は検査なしで医師が感染を判断する『みなし診断』もできるようにしましたが、それは厳しい選択です。本当は、10月や11月の感染者の少ない時期にキットの増産をやっておくべきでした。冬にはコロナがやってくることは想定内でしたから」(岡田氏)

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ワクチンだけではコロナは乗り切れない