そんなやっかいな連中がうようよしているプロレスラーの中で、特に変わった性格なのがケンドー・カシンだな。こいつこそ真のへそ曲がりだ。普通に事が運ぶのをよしとしなくて、話をぐちゃぐちゃにして、上に対しても物怖じしないし、ややこしい奴だよ。俺が新日本プロレスのリングに上がっていた当時、現場監督だった長州力と一緒に飲んでいて、ちょうどよく酔っぱらってきたから「もう帰ろうか」と言ったら、長州の付け人でついてきたカシンが「長州さん、天龍に勝ちましたね!」なんて、俺の前で言いやがって、なんだあいつは! 本当に、プロレス界の変わり者だよ、カシンは。早稲田大学を出ているから頭もいいというか、揚げ足の取り方がうまいというか、やかましいというか。
俺の娘がカシンのファンで、彼女の結婚式にも来てもらったんだけど、受付で「ケンドー・カシン様ですね? ご案内します」と言われると「違います!」なんて否定しなくていい場面でそんなことを言い出したり、披露宴の最中、ずっと高砂席に行っては娘に「コレ、使って」って、モーニングスター(鉄球にトゲがついた武器)を渡そうとしたりしていたしな……。最後はさすがの娘も「いい加減、しつこい!」って怒っていたよ(苦笑)。本当にややこしい奴だけど、ある意味、裏表がないのかもね。プロレス界にきてよかったよ。普通の社会だったら通用しないだろう……。頭がいいだけで、人望がないんだから。これを読んだら、俺にも何か言ってくるかな? 大丈夫か。あいつは東スポしか読まないからな。
相撲取りもレスラーも、性格について言われて一番嫌なのが「女々しい」「未練たらしい」だね。そう言われないように、性格も振る舞いも豪快になっていくもんだ。後ろ髪引かれるようなことをすると、周りの連中に見下されたり、卑下されたりするし、それを本人も感じるからね。だからどんなことがあっても、スパっと割り切って“股旅姿で旅に出る”
って気持ちだ。ただ、今の相撲取りやレスラーはわからないよ。俺が育った時代とは違うだろうからね、意外と女々しい奴が多いのかも……。昔は大鵬さんなんか、大阪府立体育館の職員のおばちゃんに懸賞金を渡して「おばちゃんたちで分けて」なんてよくやっていたもんだ。今の人は、そういう話が漏れ聞こえてこないから、やっていないんだろうね。大鵬さんをはじめ、すごい人は何気なく振る舞うことがうまいんだ。プロレスラーでも本当にトップにいる人はそうだ。そういう話を聞いて、自分もそうなりたいと思って、コピーをしていくと自分の器も大きくなっていくんだね。
輪島大士さんも相撲で横綱までいって、レスラーに転向しても面倒見も、気風よかったよ。その分、家では大変だったって、別れた奥さんの五月さんに後になって聞いたけど(苦笑)。でも、そう振る舞うのは横綱として当然というか、身についていたんだよね。そんな輪島さんに対して俺は「プロレスでは後から入ってきた後輩の輪島」と思っていたのに、いざ、ご馳走になる場面では「横綱、ごっつぁんです」だもんね。いやあ、我ながら情けないよ!(笑)。
(構成・高橋ダイスケ)
天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。