事情を複雑にしているのは、世界反ドーピング機関(WADA)のルールでは16歳未満の未成年に関してはドーピング違反があっても開示義務はなく、処罰も柔軟に対応する、とされていることだ。ITAは今回の発表の際、すでに報道されているため社会的影響力の大きさを考慮して実名を出したと説明した。

 フィギュアスケートにおいて、ドーピング違反はそれほど多くないが過去に何度か例はある。00年にはロシアのペアスケーター、エレナ・ベレズナヤが陽性反応となり、欧州選手権のタイトルを剥奪された。検出されたのはプソイドエフェドリンという物質で、医師から処方された気管支炎の薬が原因だった。ベレズナヤは陽性反応が出た日から3カ月間、ISU競技から締め出され、その年の世界選手権にも出場できなかった。

 今回、ワリエワの検体から検出されたトリメタジジンも片頭痛の薬が原因になることもあるという。故意ではなかったとしても、ベレズナヤと同じように処分される可能性もある。

■問いかけには応じず

 ワリエワは2月10日の公式練習に姿を現したが、報道陣の問いかけには応じなかった。コーチのエテリ・トゥトベリゼはロシアの記者に対して「ゴシップに関与するつもりはない」と答えたという。

 女子シングルが始まるまでに、CASはどのような判断を下すのか、世界の注目が集まる。

 そもそもロシアはソチオリンピックでの組織的なドーピング違反で国家としての参加ができない制裁を受けている最中である。15歳のワリエワが本人の意思で故意に違法薬物を摂取したとは考えにくい。だが、このまま出場することになったらどんな成績だったとしても、合理的な公式説明がなければ、世間は納得しないだろう。(ライター・田村明子)

AERA 2022年2月21日号

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