ウォーリー木下(撮影/写真部・松永卓也)
ウォーリー木下(撮影/写真部・松永卓也)
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 鴻上尚史さんの舞台に出合い、大学在学中に劇団☆世界一団(現sunday)を結成した劇作家・演出家のウォーリー木下さん。ミュージカルや2.5次元舞台など幅広く活動するなかで、昨年は東京パラリンピックの開会式で注目を浴びた。

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 ノンバーバル(非言語)のパフォーマンスをするようになり、作品を海外の演劇祭で上演することが増えていった。ただ、08年にスコットランドのエディンバラ・フェスティバル・フリンジに出演するまでは、「作品を買ってもらう」ところまでは行かなかった。

「いろんな国で上演させてもらって、評判のよかった作品を持っていきました。このフェスティバルには、お客さんも世界中から集まってくるけど、上演される演目も無数にあるんです。僕らの作品も、初日はお客さんが一人しかいなかった。『この後1カ月上演するのに』と不安になって、街頭でビラを撒いたりとか、いろいろ宣伝したんですが、運よく、最初に見にきたその一人が新聞社の人で。4日後にその新聞で、僕らの芝居を四つ星として評価してくれた。それで一気に知名度が上がって、2週間目には五つ星がついた」

 チケットはソールドアウト。お客さんが満席の、いわゆる「フルハウス」の状況を約2週間体験した。「自分たちがやってたことは間違ってなかったんだ」と思った。印象に残っている劇評は、「ファッキン・テクノロジー」。

「その舞台は、今でもやっているセンサーを使ったマッピングに人力を合わせたり、めちゃくちゃアナログなものと、謎のテクノロジーを組み合わせていた。多分それが面白かったんでしょうね。日本といえばテクノロジーがすごいという先入観もあって、その最先端のテクノロジーを使いながら、やっていることはアナログ。子供でもできることだったりしたので」

 そこからさらに10年以上の歳月を経て、ウォーリーさんの名を一躍有名にしたのが、パラリンピックの開会式だ。

「ノンバーバルとか2.5次元、VR演劇をやるときに僕が心掛けているのは、初めてこの世界の門をくぐる人にとって、楽しいものにしないといけないなということです。いわゆるツウの人たちからは多少非難されてもいい(笑)。今までの文脈を知らない人が見て、『あ、この世界すごい素敵』と思ってもらいたいし、日本のみならず世界の演劇自体もそうあってほしい。日本でも、100人中90人ぐらいが『演劇なんて興味ない』と言うと思うけど、僕はその人たちに、僕が大学1回生のときに感じたような衝撃を、体験してほしいんです」

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