世界の注目が集まった北京五輪の羽生結弦の演技。冒頭の4回転サルコーがまさかの1回転になり、ショートプログラム(SP)8位でフリーの4回転半に挑んだ。大舞台で挑戦し続けた羽生結弦が五輪会場入りからSP演技終了までの心境について語った。AERA2021年2月21日号の記事から。
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「挑戦しきった、自分のプライドを詰め込んだオリンピックだったと思います」
そう語る羽生結弦(はにゅうゆづる・27)は、すべてを出し切った表情だった。自身3回目となる五輪の舞台で、前人未到のクワッドアクセル(4回転半)に挑戦。新たな歴史を刻んだ。
羽生が北京に乗り込んだのは、2月6日の午後。7日はサブリンクで練習し、メインリンクの氷を確かめるのは8日のショートプログラム(SP)本番の朝のみという、短期決戦のスケジュールを組んでいた。
「長くやり続けると気合が入りすぎて、疲れちゃうというのもあり、ギリギリに(入国)しようと決めました」
出発前日まで日本で追いこみ練習をしてきたのだろう。初日の練習は、絶好調のキレ味を見せた。4回転サルコーと4回転トーループを確認すると、すぐに4回転半の練習を始める。35分間の練習で、挑んだのは8度。そのうち5回は4回転以上回っていた。なにより驚かされたのは、1カ月半前に全日本選手権で見せた4回転半とは、まったく別モノと言っていいほど、大きな進化を遂げていたことだ。
全日本選手権では、スピードを落とし、踏み切ると同時に真上に跳びあがっていた。「4回転半回ること」より、「回転軸を作ること」を最優先する跳び方だった。
「まずちゃんと軸を作れば回転も速く回る、ということでスピードを落としています。回転軸を作れるようになったのも2週間前。軸を作りきれる自信が出来てから、100%(の力)で回り切るということをやっていかないと」
羽生はそう説明した。