昨年の確認プレテストは、公立中の3年生全員が対象だった。前出の女性教員は評価の妥当性を他校の教員にも確かめたという。
「“おおむね”実力通りの評価がついていたようです。しかし入試ですから“おおむね”なんて許されません。さらに深刻なのは、成績票にはスコアとCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)のレベル、何ができるかの到達度や簡単なアドバイスしか書かれていません。ですから、おやっと思う評価のついた生徒がいても、何で失点したのか、詳細がわかりません。採点ミスがあったとしても、ブラックボックスで知りようがないのです」
生徒から成績に対する不服申し立てがあった場合、都は得点開示などの対応をするのか。確認すると「得点開示は成績票がすべて。これ以上のものを渡すことは難しい」(西貝さん)との回答だ。
■指導に矛盾をきたす
「スピーキングテストの導入は、生徒の話す力を伸ばすのでなく、むしろ話せなくする」
中学の英語教員の男性(26)はそう危機感を口にする。プレテストは四つの大問からなり、試験時間は約15分。文章を音読したり、絵を見ながら質問に答えたりする。評価の観点は「コミュニケーションの達成度」、語彙や文法の「言語使用」、発音や間などの「音声」の三つだ。
男性教員は言う。
「コミュニケーションは相手に伝えようとする気持ちがなによりも大事。間違いを恐れずに話そうと、生徒には常々言っています。それなのに入試に直結するスピーキングテストでは、発音や文法の間違いをいちいちチェックしようとする。指導に矛盾をきたします」
これに対し、西貝さんはテストの評価ポイントは「コミュニケーションの目的の達成」だとして、こう説明する。
「例えば、三人称のsが抜けたり、複数形を間違えたりしても、必ずしもマイナスになるとは限りません。発音も発音記号通りに話せているかを見るわけではありません。ポイントは意味の伝達に支障をきたしているかどうかです」
スピーキングテストが導入されれば、受験生がパターン練習をして備えることは容易に想像される。50代の中学女性教員は新たな負担を生徒に課すことに疑問を感じるという。
「普段の授業では、話し相手に合わせて言葉を選ぼうとか、スピーチの聞き手がALT(外国語指導助手)なのか同級生なのかによって話し方の工夫をしようとか、アイコンタクトは大事など、リアルに即したコミュニケーション指導を大事にしています。それなのに3年間の集大成となるテストの内容が、絵の場面の説明とか、実体のない人物のイラストに向かって一方的に吹き込むかたちで。『(絵の中の)ジョンってだれだよ?』と言いたくなります」