「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。今回は、ミャンマー国民の国軍への対抗について。
【動画】外務省前からレポート!国軍に抗議の声をあげたミャンマー人たち
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最近、ミャンマー人からの連絡がときどき届く。フェイスブックが多い。僕はミャンマー語が読めないから、ミャンマー人に会ったときに見てもらう。
「単なるあいさつですよ。元気でいるっていう知らせです」
いまのミャンマーは、国軍と対抗する人民防衛軍や少数民族軍の間で内戦状態に陥っているエリアが少なくない。彼らが発信しているらしい。
2月に入り、そんな連絡が多くなった。
僕はミャンマーのなかの少数民族、ラカイン人の知人が多い。ラカイン族の軍とミャンマー国軍の間では停戦が交わされていた。一応の平穏が保たれていた。しかし2月に入り、マウンドーで両軍が衝突。一気に緊張が高まっている。無事を伝える連絡が増えている理由だった。
僕はユーチューブで毎週、「ミャンマー速報」を伝えていた。それを1冊の電子書籍のような形にまとめることになった。その編集作業を進めながら、「これは国軍の銃と国民のSNSの闘いだな」と何度も呟いていた。
ミャンマーは10年前に民政移管し、通信事情は大きく変わった。その前の軍事政権時代は軍によってメールは管理され、電話は盗聴されていた。それが徐々に自由になっていった。2014年、スマホに挿入するシムカードを買おうとすると200ドルだといわれた。通信料ではない。登録料だった。ところが翌年、街のスマホショップで訊くと、値段は1ドル以下にさがっていた。SNSはミャンマーの人たちの通信ツールとして一気に広がっていった。ミャンマーは普通の国になったわけだ。
ところが2021年2月に国軍はクーデターを起こす。対抗する人々はSNSで連絡をとり、抗議デモが繰り広げられた。国軍の弾圧の様子が世界に発信された。国軍はSNSを遮断しようと躍起になったが、なかなかうまくいかない。どういうつなぎ方をしているのかわからないが、いまでもミャンマーの辺境からぽっと連絡が入る。