世界保健機関(WHO)が、新型コロナウイルス感染症を「パンデミック」と宣言してから約2年が経ちました。そもそもパンデミックとは、感染病の世界的大流行を意味し、紀元前より人々はペストをはじめとする「疫病」といくども戦ってきました。その様々な場面で、ハーブの活用を見受けることができます。今回はパンデミックの歴史におけるハーブの活用法について、日本メディカルハーブ協会理事の木村正典先生にお聞きました。本記事は、日本メディカルハーブ協会HPの記事を一部改変してお届けします。
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パンデミックの歴史におけるハーブの活用
1. ペスト医師と防護服
中世欧州では、ペストを専門に扱うペスト医師「プレイグドクター」が登場した。1619年にはフランスの医師シャルル・ド・ロルメによって、ペスト医師用の感染防護服、プレイグドクターコスチュームが開発された。木の杖、スパニッシュ風ハット、ガウン、手袋と共に、瘴気(しょうき)論に基づき、瘴気を吸わないようにしたくちばし型のペストマスク(下図)が特徴。ペストは主としてノミ-ヒト感染であることから、実際にはマスクの効果は最大限に発揮されなかったと考えられる。しかし鼻と口を完全に覆ったうえでハーブの力を活かしたペストマスクは、現代の飛沫感染を防ぐマスクにも応用が期待される。
<ペストマスクの中に詰められていたとされるハーブ>
ローズ、カーネーション、スペアミント、ユーカリ、カンファー、ジュニパーベリー、クローブ、ラブダナム、ミルラ、ストラックス、アンバーグリス
ペストとは……
ペスト(Pest)はドイツ語で、英語ではプレイグ(plague)という。14世紀に起こったヨーロッパの流行では、人口 の3分の1以上がペストによって失われた。皮膚が黒くなる特徴的な症状があることから黒死病(Black Death)とも呼ばれる。細菌(Bacteria)の一種であるペスト菌(Yersinia pestis)によって引き起こされる感染症。ペスト菌は1894年に北里柴三郎、アレクサンドル・イェルサンによって発見された。腺ペスト、敗血症ペスト、肺ペストに分類され、ネズミを中心に猫や犬などの小動物を宿主とする。感染経路の8割弱がノミ-ヒト感染、2割が動物-ヒト感染とされ、腺ペストでは患部接触によって、肺ペストでは飛沫感染などによって、ヒト-ヒト感染も見られる。ただし、19世紀まで、感染症の多くは、ヒポクラテス(紀元前460年頃-370年頃)の唱えた瘴気論に基づいていたため、「悪い水」から発生する「悪い空気」(瘴気・miasma)によってもたらされると信じられていた。