淀川には思い切りの良さと、もう一つ、タイトルの妙があった。「セックスを扱うのはそれまで古いタイプの週刊誌だった。男が作るからエロくなる。淀川は『セックスで、きれいになる。』とタイトルをつけ、それでまたパーンと売れた。編集長としての凄みを感じました。難しい言葉は使わない。わかりやすい言葉で読者をドキッとさせ、心を掴んでいったんです」
石崎の自宅にも遊びに来て、妻とトランプに興じていた。義理堅く、石崎の父が亡くなった時も、子供が生まれた時も優しい気遣いを忘れなかった。
泣く子も黙る淀川だが、編集者は叱られるのが嬉しく、逆にそれを自慢した。淀川に遠くから憧れる他社編集者も多かった。
「男のファッションにもうるさかった。自分のセンスと違う人には、ちょっとイカさないんじゃないのって」
そんな淀川美代子が風のようにこの世を去った。遺言には「病気のことは一切言わないでください。葬式も不要です」
「コロナでめちゃくちゃになった。人の最期も訳がわからない。でも、彼女にとってはそれがよかったのかもしれない。黒衣に徹した人だったから」
石崎孟がしみじみと言った。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2022年2月25日号