■米中の対立と北朝鮮

 ただ、日韓関係の改善は、簡単な問題ではない。12日にはホノルルで日韓外相会談が行われたが、徴用工判決問題などで原則論を応酬するだけで終わった。

 まず、日本と韓国とでは、中国の脅威が高まるなかで、地政学的に置かれた立場が異なる。日本は日米同盟を選択し、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想や日米豪印の安全保障対話(QUAD)を推進している。韓国の場合、北朝鮮に与える中国の影響力を無視できないほか、米軍の高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の韓国配備を巡って中国がかけた経済圧力に苦しめられた過去もある。

 魏氏も尹陣営の外交ブレーンも「韓米同盟を基本に、中国とは隣国として協力する」と語り、両氏とも、FOIPやQUADへの参加を明言しなかった。だが、果たして対立が激しくなっている米中両国が、そのような韓国の立ち位置を許すかどうかはわからない。

 逆に、米中対立の激化が、北朝鮮による軍事挑発を許す原因の一つになっている。北朝鮮は昨年末の朝鮮労働党中央委員会総会で明確な外交方針を打ち出さなかったが、1月19日の党政治局会議で突然、米国を非難し、中断している核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験の再開を示唆した。米国が台湾問題などで中国と、ウクライナ問題でロシアと、それぞれ激しく対立する状況をみて、国際社会による北朝鮮包囲網を突破できると計算して、態度を変えた可能性がある。実際、北朝鮮は1月30日に中距離弾道ミサイル「火星12」をほぼ4年ぶりに発射したが、国連安全保障理事会は中ロの反対から対抗措置を打ち出せなかった。

■日本に余裕がない恐れ

 韓国の次期政権が北朝鮮問題で、米中の全面的な協力は得られる見通しは立たず、逆に北朝鮮の挑発に苦しめられる可能性が高い。韓国が日米韓協力を推進するほど、北朝鮮は中国に接近するため、朝鮮半島の冷戦構造がさらに激化し、韓国は米中の間で振り回されることになる。日韓の外交当局は「北朝鮮問題が、日韓協力を確認できる唯一の機会」と位置づけてきたが、緊張が高まれば、韓国が日米韓協力から離脱する懸念が高まるだろう。また、日本政府関係者は「次の大統領が誰になっても、韓国は日韓関係の改善を目指すだろうが、日本にそれを受け止めるだけの余裕がないかもしれない」と語る。

 日本政府は韓国に対し、徴用工判決問題で日本企業に被害を与えない確約と、15年の日韓慰安婦合意に立ち返ることが、日韓関係を再び発展させるための最低限の条件だと説明している。

 ただ、保守系の尹氏が大統領になっても、すぐに韓国司法の判断を無効にすることは難しい。慰安婦合意に立ち返ることができても、ソウルの日本大使館そばにある慰安婦を象徴する少女像の撤去には時間がかかるだろう。その間に、日本で「新政権も文政権と同じだ」という声が上がりかねず、韓国の日韓関係改善にかける熱意も冷めてしまうかもしれない。最近では、佐渡金山遺跡(新潟県)の世界文化遺産登録を巡り、日韓両政府の間で激しい応酬が始まっている。

「文政権が去れば、日韓関係は改善する」というほど、状況は簡単ではないようだ。(朝日新聞記者・牧野愛博)

AERA 2022年2月28日号

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