相続のトラブルは、身内ならではの思いも絡むだけに、なかなか厄介だ。そこで、とりわけワケありの人の相続事例を取り上げ、専門家からアドバイスをもらった。“争族”から学ぶ防御法とは──。
今回は「70代の叔父が後妻業の餌食に?」のケース。
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首都圏在住の男性会社員Dさん(50代)は一人っ子で、17歳違いの母方の叔父を兄のように慕ってきた。Dさんが中学生のころに母親を亡くしたこともあり、叔父はDさんの受験や就職に際してもあれこれと世話を焼いてくれた。
Dさんはそんな叔父に恩義を感じ、独身の叔父が心臓病で入院したときに付き添ったり、入居した施設の保証人になったりしてきた。叔父はよく、「自分には家族がいないから、何かあったときにはお前に財産を受け取ってほしい」と話していた。叔父は大手企業の孫会社で役員まで上り詰めており、1億円近い蓄えがあるようだ。
5年前、その叔父から「結婚したい相手ができた」と60代の女性を紹介された。夫を亡くし飲食店で働いていたその女性は明るい性格で、初対面の印象は悪くなかった。女性には社会人の息子がおり、婚姻届は出さず事実婚の形を取ることにしたと聞かされた。
女性に不信感を抱くようになったのは、叔父を残して習い事や旅行に出かけることが多く、冗談交じりに「この人(叔父)は私のお財布だから」と話すのを耳にしてからだ。叔父は昨年から車椅子生活になってしまったが、その後、女性から正式な結婚と息子との養子縁組を求められ困っているという。
『ぶっちゃけ相続』(ダイヤモンド社)などの著書で知られる、円満相続税理士法人統括代表社員・税理士の橘慶太さんは、「この女性は悪質。Dさんは叔父に対して『叔父さんのことをお財布だと言ってたよ』としっかり教えてあげたほうがいい」と話す。
その上で、結婚や女性の息子との養子縁組は回避すべきと助言する。
「結婚しないままなら、独身で親もない叔父の相続人は姉のひとり息子であるDさんだけとなり、Dさんが叔父の全財産を相続する形になる。叔父が女性にも少しお金を残したいと言うのなら、例えば、財産の8割程度をDさんに、2割程度を女性に相続させるという遺言書を準備しておく手もある」
(ライター・森田聡子)
※週刊朝日 2022年3月4日号