「歌ができるのは感情が過剰に溢れたときですが、エッセイの場合はそのとき感じたことを後で振り返って書いています」と、寺尾紗穂さんは言う。
ミュージシャンとして活動する一方、南洋における戦争の時代を生きた人々や原発労働者についての著作を刊行してきた。稀有な二刀流だ。
『天使日記』(スタンド・ブックス、2420円・税込み)は、その寺尾さんが2017年からさまざまな機会に書いたエッセイで構成されている。
「タイトルにした『天使日記』は長女が小学生のとき、天使と友達になったことを書いたものです。私自身には見えないですが、私のライブで妖精や光を見たという人もいます。スピリチュアルなものは避けられがちですが、目に見えないものたちの世界があるかもしれないと考えることは大事だと思うんです」
寺尾さんは各地に残る山姥(やまんば)や姥神(うばがみ)の像を追っている。
「小さい頃から悪役が気になるんです。小学生のときの劇で山姥役に立候補したこともあります(笑)。陰がある存在に惹かれます」
骨太のノンフィクションも書く寺尾さんだが、自身は「エッセイスト」と名乗っている。
「事実を検証することは重要ですが、本当に知りたいのは、私が話を聞いた人にとってこの出来事がどのような意味を持っているのか、です」
出会ったすべての人のことが気になると、寺尾さんは言う。
「一度会ってそれっきりの人でも、妙に印象に残ることがあります。また、思想や価値観が違うと感じる人でも、ふとしたことから違う面が見えることもあります。だから私は大勢が集まる場所よりも、二人きりで話すのが好きなんです」
ネットのSNSでは、自分と合わない意見が簡単に切り捨てられる。でも、実際にその人と会って話せばまったく違う面が見えるかもしれない。「その可能性を信じたいですね」と、寺尾さんは言う。
本書には多くの人が登場するが、バンド仲間のスーさんのように亡くなった人についての文章が特に印象に残る。