2003年に創刊した週刊朝日ムック『手術数でわかる いい病院』。本誌が歩んできたこの20年の間に、医療もまた目覚ましい進歩を遂げた。そして次の20年で、どのように発展していくのだろうか。心疾患とがん領域について、過去を検証し、未来を予想する。好評発売中の週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』の創刊20年特別企画から、一部抜粋してお届けする。
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■進む低侵襲化と効率化。治療の価値基準は変わった
心疾患とがんの治療のターニングポイントが、2000年代初頭にあった。冠動脈バイパス術では心臓を止めずにおこなう「オフポンプ手術」が広く普及し始め、がん細胞を高精度で攻撃できる「分子標的薬」が保険適用になった。
以来、より低侵襲で効率的・効果的な治療法が続々登場してきている(年表1、2参照)。心疾患ではカテーテル治療が発展し、外科手術をせず内科治療で心筋梗塞(こうそく)を治せる症例が増加。外科と内科が共同でおこなうハイブリッド手術が普及したことで、胸部大動脈瘤(りゅう)はTEVAR、心臓弁膜症(大動脈弁狭窄<きょうさく>症)ではTAVIを用い、カテーテル治療ができるようになった。
がんの手術も低侵襲化が進み、腹腔鏡や胸腔鏡を使った手術は一般的に。近年はロボット支援手術も進んでいる。「内視鏡的粘膜下層剥離術」などの内科治療も胃、食道、大腸で保険適用になった。薬物療法では「次世代シーケンサー」の登場が大きい。ゲノム配列の高速解析が可能で、分子標的薬の開発を後押ししている。
■今後の創薬の発展が鍵
医療未来学が専門の奥真也医師はこう予測する。
「創薬はまだまだ発展途上です。見つけた遺伝子変異にピタリとあう新薬は、現状では5~10%程度しか生まれていません。2035年ごろには、ほぼカバーできるようになるとみています」
新たな分子標的薬と「免疫チェックポイント阻害薬(がん細胞によって阻害された免疫細胞の活動を元に戻す薬)」との組み合わせが鍵になるという。
「第5のがん治療法」として20年に承認された「光免疫療法」にも注目したい。特殊な薬剤を注射し、からだの外から光線(赤外線の一種)をあてると、がん細胞だけをピンポイントで破壊できるというものだ。