Ari Folman/1962年、イスラエル生まれ。自身の従軍体験を描いた「戦場でワルツを」で米アカデミー賞外国語映画賞にノミネート、ゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞(c)ANNE FRANK FONDS BASEL, SWITZERLAND
Ari Folman/1962年、イスラエル生まれ。自身の従軍体験を描いた「戦場でワルツを」で米アカデミー賞外国語映画賞にノミネート、ゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞(c)ANNE FRANK FONDS BASEL, SWITZERLAND

「脚本を書き進めるなかで難民問題がより深刻に表面化し、物語に取り入れるべきと考えました。現在につながるパートは、すべて書き直したんです」

 2020年だけで1700万人の子どもが紛争地域から逃れて難民となっている、と監督は続ける。「現在はアフリカからアフガニスタンに状況が移っている。終わりのない問題です。しかし、そのなかでアンネからキティーへ、そしてアヴァへと『日記』が継がれていく。日記は他者を思いやり、大切にする心の象徴です。それを次世代へつなぐ希望として描きたかったのです」

 監督はドキュメンタリーやドラマを経て、アニメーションへと表現手段を変えていった。

「アニメーションには実写よりも自由な表現力があります。現実から夢の世界へ行ったり、潜在意識を表現したり、心理的に深い側面を描き出したりすることが可能です」

■歴史の風化が恐ろしい

 日本の作品にも多くの影響を受けた。「まずは宮崎駿監督。現在のベストは『もののけ姫』と『崖の上のポニョ』です。前作『コングレス未来学会議』は今敏監督の『パプリカ』に大きな影響を受けています。今監督が早くに亡くなられてしまったことが残念でなりません」

 監督の手で現代に鮮やかに蘇ったアンネとキティーは、我々に大切なことを伝えてくれる。

「私がもっとも恐れているのはホロコーストの生存者がもうすぐ全員いなくなり、それによって歴史が風化して、まるで聖書のなかの出来事のようになってしまうことです。この作品に参加した全員共通のゴールは『過去の教訓を現代に生かす』ことでした。いま紛争地帯で苦しんでいる子どもたちを思いやる心を持つこと──。そんな思いを感じてもらえれば、私たちの目標は達成できたと思っています」

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2022年3月21日号

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