プーチン大統領はなぜ、ウクライナへの侵攻に踏み切ったのか。20年以上にわたる発言と歩みを追うと、プーチン氏の信念と変化が見えてくる。AERA2022年3月21日号の記事を紹介する。
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「君は僕と一緒にいるから、世間から一人前に扱ってもらえるんだよ」
「殴りたくて殴っているわけじゃない。君を正しい道に戻すためなんだ」
典型的なDV男の言い分だが、プーチン大統領はウクライナについて、似たような主張を繰り返してきた。
昨年7月に発表した論文ではこう述べている。
「ウクライナの真の主権は、ロシアとパートナーシップがあるからこそ可能である」
ウクライナが目標に掲げる北大西洋条約機構(NATO)加盟については、侵攻開始を前にこう言っていた。
「明日の加盟はないというが、準備ができたらするということだろうか。そうなってからでは手遅れだ」
■救世主として君臨する
開戦後には「ロシアは隣国に対していかなる悪意も持っていない」と平然と言い放った。
DV(ドメスティック・バイオレンス)の比喩を続けるなら、問題の本質は、まさにプーチン氏がウクライナ問題を「ドメスティック・マター(国内問題)」として考えているところにある。
ロシア国営通信社は2月26日、対ウクライナ戦での勝利に備えて用意していた「予定稿」を誤ってウェブサイトに掲載してしまった。
すぐに削除された記事によると、プーチン政権が、以下のようなシナリオを描いていたことが浮かぶ。
ロシアから離れようとしていたウクライナを取り戻し、ベラルーシも含めた3カ国で構成する「ルースキー・ミール(ロシア世界)」を復興させ、プーチン氏が救世主として君臨する。
プーチン氏が抱く思想については、米国屈指のロシア専門家で、クリントン政権で国務副長官を務めたストローブ・タルボット氏が、ロシアがクリミア半島を占領した2014年に、以下のように説明している。