■人格が悪い方向に変化

 当時から全く変わっていない信念もある。それは、米国を中心とする軍事同盟であるNATOに対する強い敵意だ。

 大統領就任後間もない00年9月に公式訪日したプーチン氏は、当時の森喜朗首相に、東欧の国々がNATOに加盟することに強い不快感を示した。

「NATOに入るということは、ロシアの包囲網を敷くということだ。そんなために彼らを解放したわけじゃない。そういう意見が、ロシアにはある」

 プーチン氏は子どものころからスパイにあこがれ、大学卒業後は旧ソ連国家保安委員会(KGB)でキャリアを積んだ。旧東ドイツで勤務中もNATOを「主たる敵」と位置づけ、動向に神経をとがらせた。

 一方で、ベルリンの壁崩壊後の混乱の中でロシアに帰国したプーチン氏は、サンクトペテルブルクの改革派副市長へと変身し、欧米企業の誘致に奔走した。

 だが今のプーチン氏からは、こうした開明的な側面は感じられない。KGB時代そのままの欧米への敵意に加えて、硬直した世界観に取り憑かれて「ロシア世界の復興」を自らの歴史的使命と思い込んでいるような節さえ感じられる。

 さらに、プーチン氏の「変質」を筆者に強く感じさせるのは、今回の戦争の始め方だ。

 08年のジョージア戦争や14年のクリミア占領の場合、きっかけはそれぞれジョージア側からの攻撃と、ウクライナ国内の政治的な混乱だった。ロシア側は、そうした機会につけ込んで、軍を相手領内に送り込んだのだった。

 ところが今回は、20万人近い軍をウクライナ国境に集めた上で、正面から全面的な攻撃に踏み切った。これは筆者になじみのあるプーチン氏の手法ではない。人格の変化、それも「焦り」や「短慮」という言葉で表されるような、悪い方向への変化が起きているのではないかという疑念が深まるばかりだ。(朝日新聞論説委員(元モスクワ支局長)・駒木明義)

AERA 2022年3月21日号より抜粋

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