医師が主人公、あるいは医療現場を舞台にした医療ドラマや医療漫画は数多くあれども、なぜか皮膚科医が主人公のものは存在しない……。それを寂しく思っていた現役皮膚科医で近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師が、実際に原作となるストーリー製作にチャレンジします。前回「現役皮膚科医が医療ドラマや漫画のストーリー作りに挑戦! 謎の病気を解き明かす(第2弾)」の続きのストーリーをお届けします。
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(以下、フィクションの小説。承前)
■高齢男性の体にできた謎の発疹は、虐待が原因
「虐待?」
遠藤は珍しく少し大きめの声で聞き返した。
「はい、虐待です」
「子どもの虐待はニュースなどでよく聞きますけど、大人でもあるんですか?」
「虐待は育児で起きるだけではありません。高齢者への虐待も実は問題になっています。新聞やテレビで見かけるのは老健施設での虐待ですが、家族間でも起きています。介護の疲れが原因の一つでしょうね」
隣のデスクでは友愛会病院院長の鈴木がレセプトの点検をはじめていた。診断のついてしまった症例には興味がない。実にわかりやすい性格だ。
それにしても、と、ぼくは改めて加藤誠一のケースを考え始めた。診断がついたからといって簡単に解決策が見つかるわけでもない。いや、解決策は虐待をやめさせることだが、そのためには虐待を認めさせなければならない。しかし、加藤が簡単に虐待を認めるとは思えない。証拠がなければ警察もなかなか動いてくれないだろう。在宅でいったいどうやって解決させればいいのか。
加藤誠一の3回目の往診は予定通り翌週に行われた。珍しいことに、その日は院長の鈴木が同行することになった。
「工藤先生が診断をつけてくれた加藤さんのブツブツを見てこようかな」
遠藤とぼくが往診道具の準備を終え、車に乗り込む直前に鈴木は思いついたように声をあげた。
「もちろんです」
ぼくはそうは言ったものの、内心若干のいらだちを感じていた。