進歩の理由の一つが、人工関節の素材にある。その材質には金属やポリエチレン、セラミックなどが使われている。東京医科大学病院副院長、整形外科主任教授の山本謙吾医師は、こう話す。

「耐久性が高く、摩耗しにくい新素材が使用されて人工関節の耐用年数が延び、現在は20年以上望める時代になりました。昔は70歳以上とされていたTHAの適応対象ですが、いまはより若い年代に広がっています」

 関節が動く際の摩擦により、削れたポリエチレンかすが散らばると免疫反応が起き、その影響で骨が融解して人工関節のゆるみの一つの原因となることがわかっている。手術の合併症である、人工関節のすり減り、ゆるみ、破損は最近の機種では減少している。耐久性が向上した新しい機種では、今後、再置換術が減るだろうと予想されている。ただしそのほかの、静脈血栓症、人工関節周囲の感染症、関節の脱臼などにも注意が必要だ。

 人工関節は、カップの設置が前方に張り出すと屈曲したときに、後方に張り出すと伸展したときにステムのネックと衝突が起きて脱臼しやすい。大きな可動域を確保しながら脱臼が起こらないようにするためには、カップとステムを適切な位置や角度に設置することが不可欠だ。医師には熟練した技術が必要とされる。

 最近では、手術前にコンピュータによるシミュレーションを実施する病院が増えている。CT画像を元に、3次元的にステムとカップの設置位置・角度やサイズを術前に計画することができる。

■ナビゲーションでより高精度な手術

 そして、実際に計画したとおりの位置に、正確に手術をおこなうことが重要になる。一部の病院では、手術中に3次元センサーとマーカーを設置し、車の運転ナビゲーションのように、コンピュータ画面に表示される画像とセンサーの情報を見ながら手術をおこなう、「術中コンピュータナビゲーションシステム」を導入している。

「このシステムを使うと、手術中にモニターで、一つひとつの作業が確実におこなわれているかどうか、手術器具の現在位置が確認できるので、安全で精度の高い手術が可能です」(稲葉医師)

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