俳優としての面白さを聞くと、「作品ごとに、自分の中の正義を見つけられるところかもしれないです」と答えた。

「お芝居には正解がないので、一生勉強だろうなという覚悟をしています。子供の頃は勉強が大嫌いだった私が、お芝居の勉強は、楽しくて仕方がないんです。歴史とか時代背景を勉強するときも、『もっと深く知りたい!』って思う。映画や舞台、ドラマでも、せっかくやるからには、どこかで社会的な弱者に寄り添っていたい気持ちもあります。表に出る仕事は、見えない何かをつなげる可能性があるので、私の出た作品を見て、ちょっとでも気持ちに変化が起きるようなことがあれば、と……。それが、演じる上でのいちばんのモチベーションになっています」

 3月15日で40歳になる。

「若い頃は、自分の中に埋まっていない部分が多すぎました。知識も経験もなくて、拙い想像力では、補えない部分もたくさんあった。人の気持ちにも寄り添ってあげられなかったし、そんなことを思う余裕すらなかったと思います。とにかく、10代とか20代の前半の私は、すごく不安で、苦しかった。それが、年齢を重ねて、経験が増えることで、心の隙間が段々と埋まっていって、人の気持ちに寄り添えた経験を経て、自分の武器が増えていく感覚を味わえたんです。肉体的な衰えは怖いけれど、それは誰もが通る道。人間的な成熟はこれからだと思うと、自分の未来が楽しみです」

(菊地陽子、構成/長沢明)

中村ゆり(なかむら・ゆり)/大阪府出身。2003年から女優として活動を始め「パッチギ! LOVE&PEACE」(07/井筒和幸監督)で全国映連賞女優賞、おおさかシネマフェスティバル新人賞を受賞。舞台の出演は「焼肉ドラゴン」「怒りをこめてふり返れ」「常陸坊海尊」「MISHIMA2020『真夏の死』(『summer remind』)」、主演を務めるドラマ「今夜はコの字で Season2」(BSテレ東・テレビ大阪)が4月9日から放送。

週刊朝日  2022年3月25日号より抜粋

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