――では、なぜ中立政策を破棄してまで加盟するのか。NATOのジョアナ事務次長は6月、「(2国にとって)ロシアが差し迫った軍事的脅威になっているとは考えていない」と述べている。ウクライナと異なり、ロシアとは民族も違う。それでも、自分たちも「侵略される危機感」があるのだろうか。
大島教授:「あると思います。侵略の理由づけなら『民族』以外にも可能です。実際に北欧諸国は近年、ロシアによる他国への侵攻などがあるたびに、自国への侵攻を想定しながら軍事的な役割分担や防衛協力関係の整備を進め、2020年ごろからは特に強化してきていました」
「中立政策でいいのか」
大島教授:「NATOとの連携も、今回の加盟申請が青天のへきれきだったわけではありません。東側諸国が次々に欧州連合(EU)、NATOに加盟していくことにロシアが態度を硬化させていく中で、2国ともに『中立政策でいいのか』との声が出てきていたことも事実。NATOとの間で軍事力の相互運用性の整備は着々と進んでいました。また、ロシアがカリーニングラード(バルト海に面し、リトアニアとポーランドにはさまれたロシアの飛び地)などでの軍備増強を進めるバルト海の状況を考えると、NATOとの間で積み上げてきていたものを、『北欧各国がつながってNATOとして存在する』ことで即効性があるものにしておくことが重要と考えていると思います」
――一方で、NATOにとってはフィンランド、スウェーデン両国が中立のまま、ロシアを刺激しない「緩衝地帯」として存在してくれたほうがいいという面はなかったのだろうか。
大島教授:「バルト海周辺の事情を考えたときに、バルト3国から『NATOとロシアの国境線』がさらに北に広がることは、有事に北側からロシアを攻めることができるなど、戦略的に多様な選択肢が広がる。NATOにとって非常に重要なことでしょう」
「米国にとって大きいのは、ロシアのコラ半島(同国北西部、北極地方の半島)の存在。ロシアの原子力潜水艦の集積基地です。私たちが地図で見ると、コラ半島から米国は大西洋を挟んで遠いと思いがちですが、地球儀で北極側から見ると『米国への最短距離』であることがわかります。北極海は米国の大陸間弾道ミサイルの目的地でもあり、米ソ対立のホットな地域であることは今も変わっていません。コラ半島と国境を接するのはノルウェーですが、フィンランド、スウェーデンもすべてNATOという状況になれば、コラ半島を押さえる意味で米国にとっても意味があるでしょう」
(構成/編集部・小長光哲郎)
※AERA 2022年8月8日号より抜粋