しばらくして、「月島に長屋を一軒借りているんですが、嫌じゃなきゃそこで一席やりませんか?」「一対一でですか?」「はい」……断る理由はない。それから毎月1回、長屋の六畳間で『稽古会』が始まった。「今日はこれ(ネタ)を」「誰から習ったんですか?」「○○師匠です」「じゃあ、元々の出どころは□□さんだね」なんてやりとりをして一席。終わると、聴き手目線のアドバイスをしてくれる。時折「あの師匠はこうやってましたよ」と実演を交え、これがまた上手い。稽古後、老舗の美味いものをご馳走になり、お酒を飲ましてくれて、「じゃ、これ」と車代を頂いた。
これ、「落語聴き」としてはけっこうな『道楽』だ。もちろん誰がやっても成立するものではなく、Y先生の知識と柔らかさがあってのことだけれども。普段アンケートで批評めいたことを書かれたら「うるせえや」と悪態をつく私だが、Y先生の沢山のアドバイスがかなり身になっている。『東大』でまずアタマに浮かんだのは、Y先生のこと。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『人生のBGMはラジオがちょうどいい』(双葉社)が発売。ぜひご一読を!
※週刊朝日 2022年3月25日号