たしかに、以前はそうだったが、現在では、「がんと診断された時点から、がん治療と並行して緩和ケアを受けるべき」とされている。
■緩和ケアを受けつつ新しい治療を始める患者も
理想は、高い専門性をもつ緩和ケア医が早期から介入するべきなのだが、そうした態勢をとっている病院はまだ少ない。
日本緩和医療学会理事長で神戸大学病院緩和支持治療科特命教授の木澤義之医師はこう語る。
「国内にがん診療連携拠点病院が400施設ほどあるのに対して、緩和ケア専門医は約300人しかいません。昔に比べればはるかに増えたとはいえ、いまも医師不足の状況は続いています。そのため、標準治療終了後にようやく緩和ケアの初診を受けるケースが大半なのです」
緩和ケアの初診時にはどのような話をするのか。木澤医師が続ける。
「再発・転移ということは、がんが治ることはないということであり、まずそこは共通認識として確認します。とはいえ、希望をもってはいけないわけでもありません。いまの状態を持続させて、できるかぎり長く生活していく――という目標を共有して、サポートしていく約束を交わすのが初診時の重要な内容の一つです」
日本赤十字社医療センター緩和ケア科部長の高橋尚子医師は、このようなエピソードを話してくれた。
「他院で主治医と相性が合わずに標準治療をやめて緩和に来た人がいました。話を聞くと化学療法に未練があるというので、化学療法科で治療を再開したケースがあります。また、緩和に移ってきてからゲノム医療を受けたいという希望をもっていることがわかって、再検査のうえで治療に結びついた患者さんもいます」
■生活や治療面でも早期からの緩和ケアのメリットは多い
主治医とのコミュニケーション不足が、緩和ケアに来て初めて露呈することはある。木澤医師も、「それまでの治療が必ずしも正しいとは限らない。緩和ケア医が患者の要望に沿って医師探しをすることは珍しいことではない」と語る。「緩和ケア=がん治療の終わり」ではないのだ。