そもそも、今、契約書なしにAV出演をさせる業者などない。「強要」がないことを明らかにするために、契約書をかわすときに動画を撮っている業者もある。そういうこと自体が、「強要」の意味を矮小化させた暴力的行為だ。先の女性のように、契約書を読んで疑問を挟んでも無言の男たちの圧力で黙らされたり、「契約の内容は誰でもする形式的なこと」と説得されたりする女性は少なくない。それなのにいざとなれば、契約はしただろう、強要じゃないだろう、契約違反するなら金払え、と強烈な圧をかけられるのだ。選択肢などないに等しい。そういう女性たちに「知らなかったあなたが悪い。悪いことを悪いと窓口に訴えないあなたが弱い」と言うのが、政治家の言葉なのだろうか。

 まだ10代なのだからタバコはダメ、でもAVは自分の意思で。

 まだ10代なのだから大手銀行のカードローンは組めないよ、でもAVの契約は自己決定で。

 まだ10代だから公営ギャンブルはしてはいけない、でもAVは頑張れ。

 人権をべースにした性教育を義務教育で与えることもなく、「若ければ若いほどいい」「素人っぽければ素人っぽいほうがいい」というAV業者たちの利益に加担するなんて、国がすることじゃない。国会でより広く、深く、被害者になるかもしれない女性たちの立場で、そしてこれまでさんざん苦しめられてきた被害者の声に寄り添って、この議論をしてほしい。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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