「深夜食堂」や「孤独のグルメ」など、食を題材にしたドラマがテレビの定番コンテンツとなって久しい。なぜ、次々と新たな「食ドラマ」が生み出されているのか。その舞台裏を探ると、近年の日本人の嗜好の変化も見えてきた。
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「腹が……減った……」
の独白とともに、松重豊演じる井之頭五郎が仕事の合間に立ち寄った店で食事するドラマ「孤独のグルメ」(テレビ東京)。2012年の放送開始からシーズン9までシリーズを重ね、17年からは毎年、大晦日スペシャルを放送する人気作だ。
同作のヒット前後から、テレビの深夜枠を中心に食をテーマとしたドラマが次々と放送されている。テーマも酒のつまみ、ラーメン、激辛料理など様々だ。
なぜ、食ドラマはここまで増えたのか。漫画『孤独のグルメ』の原作者・久住昌之氏はこう語る。
「食事のことは誰もが日々身近に考えますから、多くの人が共感できるジャンルです。特に日本人は食に対する興味が深くて広く、どこの国のどんな食べ物でも『おいしいと言われるなら食べてみたい』と考える。だから、食べ物の漫画やドラマがこれだけあふれかえっていても、飽きられないのではないでしょうか」
成功した食ドラマが映画化されるケースも少なくない。弁護士と美容師の男性カップルの食生活をほのぼのしたタッチで描写した「きのう何食べた?」も、21年秋に劇場版が公開。今年5月には、給食マニアの教師と生徒の“バトル”を描いたドラマ「おいしい給食」の映画化第2弾である「劇場版 おいしい給食 卒業」が公開を控える。同作の企画・脚本を手がけたプロデューサーの永森裕二氏は、こう語る。
「これまでドラマといえば刑事モノや医療モノ、家族モノ、学園モノなどが定番でした。それらがやり尽くされ、もはや『誰が演じるか』で全て決まるような状況になってきた中で『ほかに何かないか』となったとき、誰でも関心がある食に注目が集まったのだと思います」